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「目立つのがイヤだった」高身長 馬場咲希のスタートライン

◇女子アマチュア◇全米女子アマ◇チェンバーズベイGC(ワシントン州)◇6541yd(パー73)

「じゃあね」―――。女子アマチュア世界最高峰のタイトルがかかっているとはおよそ思えないほど、気軽な送り出し方だったかもしれない。馬場咲希は父・哲也さんのそんなひと言を背中で受け止め、笑みを浮かべて最初のホールのティイングエリアに足を踏み入れた。

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海外のトップアマを圧倒する快進撃で、17歳は日本勢37年ぶりの快挙を遂げた。175cmの長身に、スラリと伸びた手足。アスリートに用いるのにふさわしい言葉かはさておき、“モデル体型”と表現しても差し支えない。多くの人がうらやむような体格の持ち主だが、「背が高い」ことはかねて彼女にとって、喜んで受け入れられるものではなかった。

馬場家の次女は、4人姉妹の中でも小さい頃から身長が飛び抜けて高かった。「小さい頃は学校なんかでも目立つのがイヤでした」と明かす。幼稚園時代の“お遊戯会”が親子の間では苦い記憶として刻まれている。

「4人くらいで並んでナレーションをやったんです。私は大きいから、みんなに見られて…」。周りの子どもに比べ、頭ひとつ大きかった馬場の顔にはおのずと好奇の目が集まった。その瞬間、宙をさまよった不安交じりの娘の視線を父は見逃さなかった。このままでは、いずれ精神的に参ってしまいかねない。打ち込める何かを与え、自信を持たせてあげたい。「体の大きさを生かせるスポーツをやらせよう」と考えた。

哲也さんは30歳を過ぎてボールを打ち始めたアマチュアゴルファー。凝り性で、1日に1000球も打ち込むほど熱中していた時期もあったという。そんなある日、足を運んだ関東地方のゴルフ場で見かけた“親子大会”のアルバムに、見覚えのある笑顔を見つけた。「ああ、いつも練習場にいるお父さんと娘さんだ」。現在、国内女子ツアーでプレーする菅沼菜々とその父の姿に、自分たちを重ねた。「ゴルフなら娘たちと一緒に楽しめるかもしれない」

スタートはプラスチックのおもちゃのクラブとボール。次女は一緒に始めた2歳上の長女に負けては悔しがった。7歳で初めて競技ゴルフに出場。中学に入ってからは練習環境の確保に必死になった。高校入学後に山梨県内のゴルフ場にショートゲームエリアを提供してもらったことで劇的に上達した実感が、馬場にはある。「いろいろなライで練習しているので、それがやっとできました」。日々の努力の成果は米国のメジャーコースでいかんなく発揮された。

「ゴルフは全部楽しいです」と屈託なく笑い、「お父さんとケンカしたときは、うわ…って思いましたけど。でも、ゴルフを嫌いになったこと、ないです」。目立つのが嫌で仕方なかった高身長も「最近は逆にいいなと思えるようになって」と言える。

うれし泣きした娘をグリーンサイドで抱き寄せた哲也さんは、遠慮がちに語った。「…単純なヤツだなと思います。何かを信じて、ここまで来られた。すごい人だなって」。世界のトップアマと渡り合い、どんなシーンでも動じない強心臓ぶり。それは生まれながらのものではなかったことを家族は知っている。「(ゴルフが馬場の)自己表現をできる場になったことはラッキーでした。人前でも話せるようになりました。僕の“ミッション”はこれで完了なんです」と目を細めたのは、決勝戦に臨むよりも前のことだった。

そうは言っても、アマチュアゴルフ最高峰のタイトルを射止めた娘への関わりが終わるはずがない。「帰りたくないです…」。名残惜しそうに帰国の途に就いた17歳の目に米国はゴルフ環境だけでなく、コースの外も魅力的に映っている。

「(6月の)全米女子オープンに初めて行ったときに、すごくみんな大きくて。170cm、175cmくらいでも“普通”だった。いいなあと思って。日本では自分がすごく目立つから…と思っていたけど、アメリカでは“普通”。ああ、いいなって思いました」

メジャータイトル獲得がゴルファーとしての将来の目標のひとつ。プロ転向、国内外での大学進学…と目の前にはあらゆる選択肢が湧いてくる。迷うあまり揺れ動こうとも、視線は幼かったあの時よりはるかに希望に満ちている。(ワシントン州シータック/桂川洋一)

桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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