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「フットゴルフ」ならJリーガーに勝てるのか!?サッカー経験記者の帯同ルポ
2024/01/06 16:12
2023年12月某日、栃木県のTBC太陽クラブで、サッカーJ2のFC町田ゼルビアに所属する稲葉修土(いなば・しゅうと)選手主催の「チャリティイベント フットゴルフ」が行われた。稲葉選手のファンやスポンサー関係者ら約30人が参加。フットゴルフは初挑戦、ゴルフは「やったことがある程度」という稲葉選手はどのぐらいのスコアを出せるのか?そして、アマチュアのサッカー経験者(筆者)はフットゴルフならJリーガーに勝てるのか?イベントを体験&帯同でリポートする。
フットゴルフとはどんなものか?
フットゴルフを知らない人のために、競技形式やルールを説明しておこう。その名の通り、サッカー(フットボール)とゴルフを融合した新スポーツで、ゴルフ場のグリーン周りやラフなどに切られたバケツ大のカップにサッカーボール(5号球)を入れる競技。「ボールはあるがままプレーする」、「遠い方から蹴る」などルールはゴルフとほぼ同じ。各ホールにパー3、パー4といったパー設定があり、打数に応じてスコアを記入していく流れも一緒。14本のクラブの替わりに1本(ないし2本)の“足”を使ってコース攻略するわけだ。ゴルフのルールやコースマネジメントを理解している人の方が、コース攻略に有利なのは間違いないだろう。
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それにしても、なぜフットゴルフを企画したのだろうか。ウォーミングアップ中の稲葉選手をつかまえて話を聞くと、「ファンサービスの一環です。フットサルも候補に挙がりましたが、フットゴルフなら女性も子どもも一緒に楽しめると思って」。確かにボールさえ蹴れたら、誰でもプレーができ、クラブもいらないのでプレーの敷居もだいぶ低い。実際に今回のコンペ参加者には女性や子どももいて、ティを変えて稲葉選手と同じ組で回れていた。
「100切り」は経験なし
プレーする前に、まずは敵(!?)の分析から。対戦する稲葉選手は中盤の底(ボランチ)を務めるミッドフィルダーで、普段はいわゆる“ボールの刈り取り役”としてピッチを縦横無尽に動き回る。無尽蔵のスタミナを持ち、キックのパワーと精度も申し分ない。ただゴルフの腕前はどのぐらいなのか?
「やったことはありますが、センスがなくて…。100を切ったことないんですよね」。むむむ、筆者は小中高とサッカーを経験しているのでキックには多少の自信もある。サッカーだと到底かなわないが、フットゴルフならひょっとして勝つチャンスはあるか!?毎回、フリーキック(ないしPK)を蹴るようなイメージだから、ちゃんと当たれば…。淡い期待を抱きながら、1番ホールのティイングエリアに向かった。
キックの精度の差がモロに出る
この日のプレーはフォアサム方式。二人一組で同じボールを交互に蹴る。相方の技量がスコアを左右するが、稲葉選手には明らかにサッカーがうまそうな小学生(リフティングがめちゃくちゃうまい)がつき、私は小中高大でのサッカー経験者のIさんと組んだ。相方ではこちらに少し分があるだろうか。今回は9ホールのプレーでトータル1220ydパー34設定、そこまで距離もないので案外スコアを出しやすそうだった。
スタートホールはパー5(274yd)で、緊張のティショット。さすが現役Jリーガー、大きく振りかぶって蹴った球はフェアウェイの中央へ飛んでいった。のっけからビッグドライブ…と思いきや、風に戻されて約100yd地点に落下。「あまり上にボールを上げちゃいけないのか。蹴り方が違うんかな…」と稲葉選手は素振り(?)をしながら反省している。一方で、私の蹴った球はミスヒットのゴロ気味だったが転がって、結果的に稲葉選手のボールの近くまで。風が強い時はゴルフと同じで、低弾道の方がうまくいくのだろう。
2打目はお互いの相方が距離を稼ぎ、グリーンまで100yd地点へ運ぶ。3打目地点からゴルフのグリーン方向を臨むと、グリーン左手前になにやら芝が刈られたスペースがあり、控えめな旗が立っていた。右利きならインスイング(内巻き)でカーブをかけて狙いやすいロケーション。稲葉選手の球は強すぎてピンをオーバー。それを見た私は、カット目に足を入れてピンそばに止めるような球を打ってみたが、うまくいかずにショート。お互い相方の4打目のアプローチは寄らず、5打目のパーキック(?)も入らず、ともにボギーにした。
続く2番パー4は稲葉組がパー、筆者組がダブルボギーで差が開く。3番ホールは短い128ydのパー4。左サイドが全部池でしっかりとわなが効いていて、右利きなら力が入ると引っかけて池に入れてしまいそう。ドロー回転ではなくライナー性の球を蹴りたいところだが、稲葉選手はさすがのキック力を見せ、フェアウェイ右端にライナー性の球を蹴ってフェアウェイをとらえた。一方で私の球は左回転がかかりすぎて、バンカーへ。バンカーがなかったらあわや池…。キックの精度の差がモロに出た。
バンカーでは「助走なしで蹴る」というルール。ゴルフの砂にソールしてはいけない感覚と近く、なかなか難しそうだが、相方のIさんは見事脱出してグリーン近くまで運んでくれた。アプローチを寄せて、なんとかパーを拾ったが、稲葉組は小学生君の活躍もあり、難なくパー。2打差は縮められなかった。
小学生君は高いレベルのキック精度を誇り、(ゴルフに比べて)飛距離がさほどアドバンテージにならないフットゴルフだと、大人とそん色のない貢献度。際どいパットを沈めていたのもその小学生君で、「だいぶ助けられています」と稲葉選手も終始感心していた。
弱いパスを出したことがない
その後は一進一退が続き、1打ビハインドで食らいついてパー5の最終9番ホール(247yd)へ。パー5だし逆転も…と、緊張が走る。その状況下で、稲葉選手が2打目地点から“きょうイチ”のスーパーショットを見せ、グリーン近くまでボールを運んだ。サッカーで例えるなら、中盤の底から右ウィングに長いロングパスを蹴ったようなライナー性の見事なキックだった。我々には稲葉選手ほどの距離が出せずに、グリーン近くまでに4打もかかってしまった。
最終的には稲葉組も我々もボギー。稲葉&小学生組が「37」、筆者&Iさん組が「38」と1打差で涙をのむことに。「フットゴルフでもJリーガーに勝てないのか…」。終わってみれば、やはりキックの精度とパワーの差が微妙なスコアの差に表れた9ホールだった。
試合後、稲葉選手にフットゴルフ初体験の感想を聞いた。「傾斜を読むのがめちゃくちゃ難しいなと思いました。サッカーはピッチがすべて平らなので、傾斜で意外にボールが転がることに驚きました」。途中からグリーン周りの傾斜を事前にチェックしていた。「(グリーン周りを)見ないと、やっぱ寄せられないなと思いました。フットゴルフの奥の深さみたいなものをすごく感じました」
フットゴルフの難しさとして、もう一つ挙げたのが「狙ったところに止める」こと。「僕らって試合だと相手にパスするんで、強いパスを求められるじゃないですか。だから“そこにちょうど止める”というキックはあんまりない。カップのところにちょうどいい強さで蹴るというのが初めての経験だったので、難しさもありましたがすごく新鮮でした」
稲葉選手が言うように、足で打つパッティングは、フェースのイメージを作って強弱をつけないといけない。ゴルフのパッティングと一緒で難しかった。グリーンは芝の転がりもマチマチで、タッチの正解が分からないまま9ホールが終わってしまった。
初のフットゴルフ体験、9ホールではあったが、奥が深くてけっこうハマりそうな予感がした。稲葉選手との第2戦がいつになるかは分からないが、その日までにしっかりと“足”を磨いておきたい。(編集部・服部謙二郎)