【藤田寛之専属キャディ・梅原敦のマスターズレポート2013<2>】
2013年 マスターズ
期間:04/11〜04/14 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア)
陽春の色彩鮮やかな四月のオーガスタ
もうすぐそこまで迫ったマスターズ・トーナメントへの期待が高まるなか、europeantour.comが唯一無二であり権威あるこの大会の歴史と独特の魅力を紐解く・・・
オーガスタナショナル・ゴルフクラブは五感と結びつく世界観を形成しており、特に景観が素晴らしく、更に明確に述べると色合いの良さが際立っていると言える。それは、このゴルフクラブが造られたジョージアの地の歴史と伝統を考えると、まさに相応しい特色といえるだろう。
200年前、それは1931年にボビー・ジョーンズとクリフォード・ロバーツがこの地を70,000ドルで買ったよりもさらに時代を遡ることになるが、この地は藍の栽培地であった。文字通り、オーガスタは色で覆われていたのだ。
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そして、現在はマスターズの開催地として知られるこのオーガスタの開拓はここで終わることはなかった。1857年、園芸家でもあるベルギー人のルイ・マシュー・エデュオード・バークマンズ男爵とその息子で農学者のプロスパー・ジュリアス・アルフノーズはこの土地を買い、海外からの輸入花や植物の苗床のビジネスをスタートした。
1910年のプロスパーの死後、そのビジネスは中断され1918年に消滅した。しかしマグノリアの並木など、バラエティに富んだ花々や木々は南北戦争後もこの地に残った。
アマチュアとして輝かしい選手生活を送った後1930年に競技生活を引退したボビー・ジョーンズは、常々ゴルフコースを作りたいと考えていた。そしてジョーンズとロバーツの共通の友人であるトーマス・バレット・ジュニアがその地としてオーガスタを推薦すると、二人は瞬時にこの場所を気に入った。
「私がこの場所を最初に訪れた時のことを忘れることはないだろう」とジョーンズは著書『Golf Is My Game』の中で述懐している。「長く続くマグノリアの並木道がとても美しかった。丸い屋根にレンガ造りの領主の館はとてもチャーミングで、珍しい木々のしげった古い苗床はとても印象的だった」。
「そして私が、家の裏にある大きな木の下の芝生のテラスからこの土地を見下ろした時の印象は忘れ難いものだった。まるでこの土地は何年もの間、誰かがゴルフコースを作るのを待っていたかのようだった」。
英国の有名なゴルフコース設計者のアリスター・マッケンジーがこの地の自然の地形や特徴を活かしたデザインを施し、1932年の12月にコースはオープンした。
バークマン時代の面影は今日でも躑躅、しゃくなげ、ハナミズキの花々が咲くこの美しいコースにたっぷりと残されている。この地の歴史は今でも各ホールに、ティーオリーブ、ゴールデンベル、ホーリーといいた具合にそれぞれのホールを象徴する植物の名称を与えることによって受け継がれている。
365エーカーのこの地には350種類以上にも及ぶ8万本の木々が植えられている。またここオーガスタの豊かさはコースのあらゆる所で色々な形で表されている。芝生は自然とは思えないほどの豊な緑色をし、バンカーには美しい白砂が蓄えられている。そしてそれらは当時の趣そのままのクラブハウス、そして有名な黄色いフラッグととてもマッチしている。
ここには長年にわたってオーガスタのオーラが漂う有名なポイントがある。アーメンコーナー、後世に名を遺したマスターズチャンピオン、ベン・ホーガン、バイロン・ネルソン、そしてジーン・サラゼンの名前がついた3つの橋、そしてアイクの池だ。
オーガスタの80年の歴史でたくさんの選手のボールを飲み込んだ、11番ホールから13番ホールまで続くラエズ・クリーク。このクリークは1739年に没したジョン・ラエの名を取ってつけられた。彼の家はオーガスタ砦から最も遠い位置にあったサバンナ川流域の要塞であり、ネイティブ・アメリカンとの攻防の拠点として使われた。
17番ホールはかつてのアメリカ大統領のアイゼンハワーの名を取った木があることは広く知られている。ティグラウンドから210ヤードの地点に聳え立つ20メートルほどの高さのこの木は樹齢100年を超える松の木だ。アイゼンハワーは1956年の政府の集まりの際には彼があまりにこの木に何度もボールぶつけることから、この木を切ることを提案したという逸話もある。
オーガスタは言うまでもなく特別な場所だ。ファンにとっても、メディアにとっても、そして何よりも選手たちにとって。
その特別さは、マスターズが年間スケジュールの中で最初に開催されるメジャー大会だからかも知れないし、あるいはは長い夏が始まる前の4月に開催されるからなのかも知れない。
しかし、恐らくそれはこの大会が常にここオーガスタで開催されているということに尽きるのだろう。何年もの長い時を重ね、ここにはたくさんの万華鏡のような色とりどりの素晴らしい思い出が刻まれている。
今年で76回を数えるマスターズも同様だ。樹齢100年を超えるたくさんの木々からなるマグノリア・レーンを越えると、選手たちをして唯一無二と言わしめるマスターズそしてオーガスタで、卓越した4日間を送った者にのみ与えられるグリーンジャケットをかけた戦いが繰り広げられる。
エリートメンバーに名を連ねるかつてのチャンピオンたちも年々この大会を築き上げる証となっている。1991年のマスターズの覇者イアン・ウーズナムはスタートホールを「パラダイスへの入り口」と称している。また2度のマスターズ覇者バイロン・ネルソンは1937年に「美と言う観点に於いて、このコースの崇高さには、かつて私のプレーしたどのコースも遠く及ばない」と絶賛した。
ジョーンズとロバーツがこの種苗場を買ってから82年、今年もこの世界で最も美しいコースのひとつであるオーガスタにまた新しい歴史とヒーローが生まれようとしている。
バークマンの植えた幾万ものハナミズキが光り輝くこの鮮明で刺激的なコースで、ひょっとすると新たなヨーロピアンツアーのスターがメジャーチャンピオンとして花開くために台本は書かれたのかもしれない。
勝者はスポーツ史の一ページにその名を刻むことになる、永久に消えることのないジョージアの藍で。