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2019年 全英オープン
期間:07/18〜07/21 場所:ロイヤルポートラッシュGC(北アイルランド)

小林至博士のゴルフ余聞

北アイルランドの歴史と経済、そしてスポーツの祭典

2019/07/16 11:30

北アイルランドでの開催は68年ぶり2度目となる。開催コースは、その際にも使用されたロイヤルポートラッシュである。米ゴルフダイジェスト誌が世界4位(北米を除く)に評したほどの名コースが、一度きりで「全英オープン」のローテから外れていたのは、1960年代から90年代まで続いた北アイルランド紛争の影響もあったのだろう。

アイルランド共和国と陸続きの北アイルランドでは、統一アイルランドを望むカトリック系と、英国に帰属を望むプロテスタント系との間で抗争が繰り広げられてきた。ロイヤルポートラッシュで「全英オープン」が開催された1951年頃は、対立が小康状態にあった時期だったであろうことは、その2年後(1953年)に、史上初めて「アイルランド・オープン」が北で開催された(同じくロイヤルポートラッシュ)ことからも、そのことは推察される。

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しかし平和は長くは続かなかった。1960年代に入ると、米国における公民権運動に触発されたカトリック系住民による民族意識の高まりが武力衝突に発展した。この紛争状態は、1998年のベルファスト合意によって停戦するまでの30年以上にわたり続き、統一アイルランドの実現を目指す武装集団IRA、鎮圧しようとする治安当局、IRAに対抗するためにできた民兵組織UVFの三者が入り乱れた憎しみの連鎖は3000人以上の死者を出した。

そんな、覇権国である大英帝国の隣国ゆえの悲哀に満ち満ちた歴史を辿ってきたアイルランド島の近代史を描いた映画は、多数の名作が世に出ている。英国からの独立戦争時代を描いた『麦の穂を揺らす風』(2006年)はカンヌ映画祭でパルム・ドール(最高賞)に選ばれ、北アイルランド紛争が激しい武力闘争へ暗転していく転機となった事件を描いた『ブラディ・サンデー』(2002年)はベルリン国際映画祭で最優秀作品賞に選ばれた。

1998年の停戦以降、平和になったアイルランド島は経済的に大躍進を遂げた。共和国は、経済政策がずばり当たり、タックスヘイブンのひとつとして世界中から投資が集まる裕福な国になり、2018年の1人当たりGDPは世界5位で、なんとわが日本の倍近い額である(人口500万弱の国と1.2億の国を比べるのもなんだが)。

そして2012年に「アイルランド・オープン」が59年ぶりに北アイルランドで開催されたのに続き、今回の「全英オープン」開催とあいなった。平和の時代に入ってから、アイルランド島出身選手の活躍も目覚ましく、メジャー優勝者だけでも、北からはダレン・クラークグレーム・マクドウェルロリー・マキロイ、共和国からはパドレイグ・ハリントンとスター選手がずらりだ。やっぱりスポーツは平和の祭典だね、メデタシ、メデタシといきたいところだが、今後についてはやや暗雲が垂れ込めているのはBREXITである。

欧州連合(EU)の根源的な理念は、殺戮の歴史を繰り返してきた欧州が「もうしない」という決意表明である。だから離脱は、それがどこの国であっても域内にくすぶる血塗られた歴史を想起させる不穏なものになるが、BREXITもアイルランドとの国境付近をきな臭くしている。

アイルランド島の躍進には、国境線を政治的にも経済的にも意識することなく、北と共和国を自由に行き来出来たことが間違いなく寄与した。しかし、EU離脱となれば、EU加盟の共和国と非加盟国側の北の間には税関検査が必要となるのだ。所属国家は違えど同じ島民として、ないかのようにふるまっていた国境が再び意識されることによる分断がもたらす悪い可能性については、BREXITにおける最大の懸念事項として関係諸国は強く認識もしており、平和がもたらす恩恵が広く深く認知されたいま、まさかそんな愚かなことはしないと思いたい。

今大会は「全英オープン」史上最多、20万枚以上用意された観戦チケットが発売とほぼ同時に完売になるなど、68年ぶりのアイルランド開催に対する地元の期待はハンパではない。スポーツの感動を味わえるのは平時だからこそ。スポーツのチカラを信じようではないか。(小林至・江戸川大学教授)

小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。

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