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小林至博士のゴルフ余聞

ゴルフブームに期待する練習場イノベーション

2021/09/29 15:00

長期低落傾向にあったゴルフ産業が、コロナ禍で活況を呈していることは、本稿の読者であればよくご存じのことと思う。ゴルフ場運営会社PGMが発行した最新の報告書には、第1四半期の来場者数は対前年比36%増と記されている。アメリカでは昨年、620万人がゴルフを始め、この数字は史上最高値だという。その他の国でも、イギリスでラウンド数が60%増とか、オーストラリアでは40%増とか、コロナ禍のゴルフブームは、世界共通である。

スポーツ産業全体でみると、三菱UFJリサーチ&コンサルティング・マクロミルの調査によると2020年度のスポーツ関連支出が前年比3割減と苦境にある。そんななかで、ゴルフ産業が異彩を放っているのは、3密のリスクを避けつつ、適度な運動ができる、その特性が時勢にマッチしたからである。

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デビューを果たしたのは、日本でもアメリカでもイギリスでも同じく、20~30代の若者層である。どの産業にとっても、ライフタイムバリュー(LTV)が高い若年層の増加は、もっとも喜ばしいことである。

今後の見通しはどうだろうか。レジャー産業は、コロナ禍が過ぎ去ったあとの需要の急回復が見込まれているが、人々がレジャーに興じることのできる時間とおカネには限りがある。時間でいえば、忙しい現代人が余暇に費やせるのは一日平均4時間ほど。貴重な時間とおカネを、それも日本の場合は人口減少で、パイが縮小していくなかで、あらゆるレジャー産業が取り合う、顧客獲得を巡っての壮絶なバトルロワイヤルとなるのだ。

ゴルフは、競技特性上、どうしたって時間とカネがかかる。なにもしなければ、バブル以降、初めてやってきた活況は、コロナ禍とともに去りぬということになるのは、火を見るよりも明らかだ。では、新規ゴルファーを丸々とはいかないまでも、その一部でもつなぎとめるにはどんな方法があるだろうか。

アメリカの「Topgolf(トップゴルフ)」は、その一つのソリューションと思える。会社としてのトップゴルフ社が展開している「Top Tracer Range(トップトレーサー・レンジ)」は現在、このGDOが日本中の練習場に精力的に広めつつあるが、ここで言及するのは、言ってみれば同じ会社の別サービスということで区別して読み進めてもらいたい。ちょっと紛らわしいけれど。

トップゴルフとは、一言でいえばエンタメ化された練習場である。打席の後ろに4~5人が座れるテーブル席が配置されており、ノリの良い音楽をBGMに、アルコールを含む飲料、食事を楽しめる。打席からは、フェアウェイに配置された複数のターゲットを用いて、複数の方式のゲームを楽しむことができる。日本でいうボーリング場のゴルフ版と考えるとイメージが湧くかもしれない。

同社の創業は2000年、双子のイギリス人兄弟の手による。試行錯誤を繰り返しながらの雌伏の時を経て、2010年以降、テクノロジーの進化に伴い急成長し、現在は、全米58か所、イギリス、オーストラリア、メキシコ、アラブ首長国にも市場を広げ、年間来場者数は2300万人。昨年10月には、キャロウェイが20億ドル(約2200億円)で買収し、同社傘下となった。ゴルフを全くしない、その気もないと公言していた私の友人(ノースキャロライナ在住)が、子供を連れて行ったところ、病みつきになったというから、さぞ楽しいのだろう。

アメリカでこれだけの市場を開拓したにも関わらず、いまだ日本には未上陸のサービス。代わって、既存施設に弾道のバーチャル画面を表示する「トップトレーサー・レンジ」導入を進めてきているのは、日本人の性格や津々浦々まで開拓された感もある練習場市場には、こちらの方がスピード感をもって普及しやすいと考えたのかもしれない。いずれにしても、ゴルフのような成熟産業であっても、イノベーションの余地はまだあるのだ。やっぱり手軽にストレス発散ができるカラオケがいいや、となる前に、新たな施策を打ち出すことを、我が国のゴルフ業界に期待したい。(小林至・桜美林大学教授)

小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。

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