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小林至博士のゴルフ余聞

渋野フィーバーと世界の中の日本女子ツアー再考

2019/08/21 07:20


日本人女子として42年ぶり2人目のメジャー大会優勝。それも初挑戦で、屈託のない笑顔が素敵な、フツーっぽい20歳の女の子が成し遂げたのだから、フィーバーになるのも道理だろう。一方、日本人女子プロゴルファーがメジャーで勝つこと自体は、起こるべくして起きたことであり、むしろ42年も間が空いていたことのほうが奇跡だという気がする。

42年前に「全米女子プロ」で勝った樋口久子さん以降、岡本綾子さん、小林浩美さん、宮里藍さんら、多数の日本人ゴルファーが世界の舞台で活躍してきた。米ツアーで17勝を挙げ、賞金女王にも輝いた岡本さんや、世界ランク1位に君臨した宮里さんらがメジャーに勝っていなかったのは、歴代メジャー優勝者にワン・ヒット・ワンダー(一発屋)が山ほどいるなかで、めぐり合わせとしかいいようがない。

まして今や、こうした先駆者の活躍があったからでもあろうが、日本の女子ツアーは、男子ツアーや他の多くの競技と違い、少なくとも賞金面において、世界と極端に差があるとはいえない。たとえば、米LPGAツアーは、33試合の開催、賞金総額は7055万ドルである。1ドル110円で邦貨換算すれば77億円、1試合平均で約2億3500万円となる。一方、日本女子ツアーは39試合、39億4500万円だから、1試合平均にすると約1億100万円で、米ツアーの47%である。ちなみに男子ゴルフの世界では、米ツア―の賞金総額366億円に対して、日本は43億円である。

これをどう見るかだが、米LPGAツアーのほうが確かに倍以上の賞金総額だが、そこには、日本ツアーのトッププロであれば参加可能なメジャー5試合、12カ国での共催試合(日本ツアーと共催の「TOTOジャパンクラシック」もそのひとつ)が含まれている。つまり、米LPGAツアーに所属しなければ、世界と切磋琢磨が出来ないというわけではないし、また過酷な“地球行軍”にあえて身を置くのがプラスかどうかも分からない。

むろん、こういう過酷さに耐えなければ本物になれないという説もあって、そういう根性論は嫌いではないが、競技に専念できる環境を早く確立できるほうが本当はいい。それでも、テニスのように、世界連盟組織の元でピラミッド構造になっていて、日本国内にとどまっていては、生活もままならない競技であれば、言葉も通じない見知らぬ土地から土地へと渡り歩くツアー生活に耐え忍ぶほかないだろう。

ゴルフでも、男子のように、米ツアーと日本の賞金に10倍近い格差が生じていて、世界レベルの選手と日本でお手合わせする機会は滅多なことではあり得ないような状況であれば、世界に通用する選手になるためには米ツアー入りを目指すべきだし、すぐに手が届かないのであれば、ステップとして、欧州ツアーやアジアンツアーで腕を磨くべし、ということになろう。

しかし日本女子ツアーは、すでに世界レベルの選手を多々輩出してきたこともあり、続けとばかりに有望なゴルファーが次々と現れるし、この20年で30ものメジャー優勝を獲得したゴルフ大国=韓国から来たギラギラした若手や、申ジエのような世界レベルの選手がいて、切磋琢磨の日常だ。

渋野がジンクスを打ち破ったことで、今後は、堰を切ったように、と行くかは分からないが、次の日本人メジャー優勝者は早々に現れるであろう。(小林至・江戸川大学教授)

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小林至(こばやし・いたる)
1968年生まれ。江戸川大学教授、博士(スポーツ科学)。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。

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