2012年 マスターズ

【WORLD】オーガスタのことならジャックに聞け。ニクラスの影響力

2012/03/29 17:07

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1986年、史上最年長の46歳でマスターズを制覇したときのニクラス。もちろんこの記録は、いまも破られていない(Getty Images)

現在はフロリダ州ジャクソンビルで投資銀行家として働くスティーブ・メルニックは、1970年に全米アマで優勝した後、オーガスタでニクラスとペアを組んだ。メルニックはそれまでニクラスと面識がなかったが、2人は非常にウマが合い、翌年、ニクラスはメルニックを自分のプライベートジェットで1週間早くオーガスタ入りするように招待し、1967年優勝のゲイ・ブリュワーとデイブ・ヒルと、4日間に及ぶ賭けゴルフをした。「ジャックのパートナーとして大稼ぎしたよ」と、メルニックは言う。「このラウンドで、ジャックからいろいろなことを学んだ。当時にしては珍しく、距離に最新の注意を払うタイプだった。12番ホールでは、キャリーの違いを知っていたし、特定の風が吹いた場合、4番ホールはどのようにプレーしたらいいか知り尽くしていた。基本的に、すべてのグリーンは11番グリーンに向かって傾斜していると分析してくれたんだ」。

ジョージア出身のメルニックは、1970年、23歳の時までオーガスタでプレーしたことがなかった。最初のティーでニクラスと会った時ほど緊張したことはないという。そして、そのニクラスは親切極まりなかった(ニクラスと一緒にラウンドしたことがある人は、必ずこの言葉を使う)。

「ニクラスは最高のティショットを放った」とメルニックは言う。「自分は、野球で言えば、インフィールドフライを宣告されそうなテンプラを打った。一緒に坂を歩いて下りながら、ニクラスに大丈夫か? って聞かれたんだ。だから、ダメです、死にそうなくらい怖いですって答えた。すると、ニクラスは自分の両手を持ち上げて、震えているのを見せてくれた。『俺だって怖いんだよ。楽しみながらいいプレーをしようじゃないか』ってね。だから、僕らは楽しんだ。よく話をしたし、ペアリングは体重で決まるなんて冗談もあった。おそらくこれまでで最高の組み合わせだね。その日から一生の友だちになったよ」。

かつて全米アマチュア王者となった他のゴルファーたちも、同じような鮮明な思い出を持っている。レブロン・ハリスJr.は、1963年にニクラスとペアを組んだとき、ロングヒッターの21歳だった。「4番ホールで、オナーだったジャックがミドルアイアンで打って、グリーンに乗せた。自分も同じクラブを使ったんだけど、距離が足りなくてバンカーに入ってしまった。すると、『充分な距離が出るクラブじゃなかったんだろ?』って言うから、『あなたのように遠くまで飛ばせなかっただけです』って答えたんだ。自分は若くて体格もあったし、背も低くない。だが、ジャックはアイアンの使い方が本当に上手だから、美しく天高い軌道で、非常に遠くまで飛ばすことができるとわかった。本当にすばらしいアイアンのコントロール能力があるんだ。あの古き時代のクラブでだ! 今じゃズルをしているようなもんだよ」。

マスターズ競技委員会会長のフレッド・リドリーも、1976年にニクラスとペアを組んだことがある。ニクラスの師でもあるジャック・グラウトからレッスンを受けていたりして、リドリーはニクラスと面識があったが、それでも“夢のような経験”だったと言う。
「ジャックがとても話し上手なことに驚いたんだ。1番ホールでパーを取って、2番ホールでもいい位置に自分ではすばらしいと思えるドライブを放った。歩きはじめると、ニクラスが、いいショットだったと言ってくれた。でも、2打目はグリーンから200ヤードほどの位置にある松の木からはみ出した枝に邪魔されるだろう、とも言ったんだ。その瞬間、当時ニクラスがマスターズで5度優勝していた理由がわかった。8番ホールでバーディを決めた自分は、1アンダーでジャックに並んだ。9番ホールのドライバーも、非常にいい感触があった。ジャックは微笑みを浮かべると、自分の球を50ヤードも超えるドライブを放ったんだ」。

スチュワート(バディ)・アレクサンダーは、フロリダ大学でゴルフのコーチを務めている。1987年、アマチュア王者となったアレクサンダーは、ニクラスとペアを組んだ。当時34歳だったアレクサンダーでも、緊張する一時だった。
「10番ホールのティーで、少し待ち時間があった。すると、ジャックは彼がとてもゲン担ぎをするタイプで、18年間もグリーン上でボールをマークする時は、同じペニー(1セント硬貨で銅)を使っていると話してくれたんだ。だから、自分はペースを緩めないために、他の人がパットするときには自分のマークを見失わないよう銀色のクォーター(25セント硬貨)かニッケル(5セント硬貨)を使うと言った。すると、ジャックは私を批判するのではなく、ペニーを使えば、誰の集中も削がないと教えてくれた。こういうちょっとしたアドバイスでも、すべて聞き入れたよ」。

2011年、ニクラスからのアドバイスは、シュワルツェルとマキロイの大躍進を後押しした。マキロイがマスターズの最終ラウンドを80で回る大崩れを演じた後で、ニクラスはトム・ワトソンも駆け出しの頃はメジャートーナメントで大炎上しながらも失敗を踏み台にした例を引き合いに出し、ミスをしっかり分析して、そこから学ぶようにとアドバイスした。そして、最終ラウンドのプレッシャーを受け入れながら、いいプレーができるようになるだろうことを伝えた。

コングレッショナル(全米オープン)で圧倒的なプレーを見せたマキロイは、「歴代最高の成功を収めたプレーヤーとヒザを交えて、すばらしいアドバイスに耳を傾けられたのが良かった。そして、アドバイスの一部をこんなに早く実践できたんだから」。
昨年のマスターズで、ニクラスがシュワルツェルのために18ホールのゲームプランを分析したという話は有名だ。昨年の夏、シュワルツェルにその一部を教えてくれないかと声をかけた。

「各ホールには、それぞれ本当に細かな作戦があるんだ。ニクラスが言うには、1番ホールはアプローチショットでグリーンの真ん中を狙う。左は下り坂になっているから絶対にダメ。2番ホールでは、ピンが左側にある時は、右の観客に狙いを定めることができる。12番ホールはパー3のショートホールだけど、フラッグを狙って打ってはいけないし、バンカー方向以外に狙いを定めてもいけないって言うんだ。ショートしてもオーバーしても、バンカーに入るからで、池やブッシュに入ることはないからだそうだ。このアドバイスが効いたよ」。

功績はまだまだ増えつづけている。

米国ゴルフダイジェスト社提携
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