2011年米女子ツアー開幕記念!!ピックアッププレーヤー解説 by 森口祐子
宮里藍 Ai Miyazato
最初からメンタルの強さがすごく評価できる選手で、ゴルフというものへの理解度が本当に高い。フィジカル面の変化では、足首と背筋が非常に強くなったと思います。足の力があればランダムな地形変化にも安定感のある対応ができるし、アプローチのバリエーションも増える。実際にアプローチも上手くなったし、昨年の活躍に繋がっていると思います。特別にスピンをかけるなど難しいことをしない、シンプルな打ち方。描いたイメージを、そのままショットやボールの転がりに繋げられるタイプで、生まれ持ったものを感じますね。特に、バンカーショットが一番うまい(09年サンドセーブ率9位)。グリップが体から離れず、ゆったりとオンプレーンにスイングできています。
宮里美香 Mika Miyazato
小学生の頃に初めて会った時、右手を下から握るすごいグリップをしていたのですが、それでも芯に当てるのがメチャクチャ上手かったですね。その頃から、飛距離よりも正確性を求めるタイプ。昔から練習の1打1打にまったく遊びが無く、今もアメリカで自分の体で足りない部分のトレーニングを真面目に続けていることが、正確性に加えて強いボールが打てるようになった要因だと思います。去年の「日本オープン」で久しぶりに会った時、とても逞しくなったと感じましたね。スイングは、私たちが昔から習ってきたダウンブローとは異なり、今の主流とも言えるアッパーブロー。芯に当てる優れた感覚は相変わらずで、高く正確な弾道が持ち味です。パットにもう少し粘りがあれば、去年はアメリカで2勝ぐらいしていたと思いますよ。
上田桃子 Momoko Ueda
プレースタイルで言うと、精神的な部分をコントロールして良いプレーに繋げる藍ちゃんとは逆だと思います。とにかく、考えがアスリート。いかにヘッドスピードを上げるかを追求し、持ち前の闘争心で勝負を勝ちにいく。“一番じゃなければ許せない”というタイプで、それが彼女の魅力でもありますね。スイングは、完璧に近いと思いますよ。下半身の安定感に優れ、体重を右から左に加速させるときの移動がシャープ。体重移動をこれだけスムーズに出来る選手はそういません。その中にあって、上半身と下半身のほんのちょっとの時差をつくりながら、低く長くフォローを出していけるのは見事ですね。軟らかさと強さを兼ね備えているから、このヘッドスピードを出せるのだと思います。
チェ・ナヨン Na Yeon Choi
賞金女王になる前ですが、プレーを見た時にこの選手は強くなると思いましたね。いろいろなショットバリエーションを持っていて、フルショットからハーフショット、高く上げる、低く抑えるなどの操作に優れている。それはアプローチにもよく表れており、ボールをフェースで操っているように見えます。ボールがフェースに乗っている時間が長くて、彼女にとっては手の平の感覚に近いのではないでしょうか。バリエーションを揃え過ぎると場面場面で迷いが生じるものですが、彼女は決断が早く、見ていて気持ちがいい。判断力にも優れているのだと思います。プレー自体もシャープで潔く、次へ、次への切り替えの大切さを良く理解している。そこが彼女の強さだと思います。
ヤニ・ツェン Yani Tseng
台湾出身ということで、幼少の頃から同年代のライバルに恵まれてきたとは思えないのですが、どうゆう環境で、どのような目標を持ってゴルフを続けてきたのか聞いてみたいですね。持って生まれた体の強さを駆使し、誰よりもボールを遠くに飛ばせることで、ゴルフがどんどん楽しくなっていったタイプだと思います。でも、スイングはまだ荒削りの部分を感じますね。すごく安定している下半身に対し、インパクトでは右肩の力で押し出しているので、右肩の起き上がりが早くなるタイプのような気がします。それでもメジャーで3勝できているのは、ショットの精度よりパワーが上回っていることで辻褄が合っているのでしょう。パワーより技術が上回っている藍ちゃんとは逆ですね。
申智愛 Ji Yai Shin
勝負では“誰にも負けたくない”という気持ちがあるものですが、彼女は逆に“みんなで頑張りましょう!”という、珍しいタイプ。こういう世界にあって、そんな選手を見るとホッとします。癒し系でこれだけ強いっていうのは、本当に応援したくなりますよね。何事も受け止めることが上手く、あるがまま、というゴルフにピッタリのような気がします。スイングでは、まずアドレスがすごく自然な形で作られています。普通は右肩の位置が下がったり、腰をぐっと下ろすアドレスを良くみますが、彼女は左右対称の長方形。トップからの脱力も上手くて、良い意味で力がふっと抜ける。腕の使い方もすごくうまいので、クラブをムチのように使えています。
クリスティ・カー Cristie Kerr
ある選手のファンになる理由として、強さとか、高い技術を学びたいとか色々あると思いますが、彼女の魅力は戦う姿勢だと思います。すごくストイックだし、その気持ちがスイングにも表れているように見えますね。右から左のターンを足のつま先で受け止め、一気にヘッドを加速させる。左足の突っ張り方とか、普通からするといいのかな、と思えるぐらいで、レッスン本とは違うスイングです。プレースタイルも攻めに徹しています。普通なら、今の自分の状態と擦り合わせながら、コースごとにマネジメントを組み立てますが、彼女は全部のホールを攻めて捻じ伏せよう、というタイプ。そこも魅力ではあるけど、けっこう感情を露わにするので、見ていて怖い時もありますね。
ポーラ・クリーマー Paula Creamer
トレードカラーのピンクのウェアや、髪を結わうリボンがとっても可愛くて華やかですね。コメントや仕草も、とってもキュート。私もプロとして見習わなくちゃいけないな、と思ったことがあったのですが、日本の試合に出場して、テレビ取材が終わった時です。OKが出た後、テレビカメラがまだ回っているところで、笑顔で「アリガトウ」って手を振って。テレビ側としても次への繋ぎがしやすいだろうし、そのあたりの去り方がすごく上手かった。スイングは、上半身と下半身に対する考え方がまったく違う印象です。下半身はベルトのラインから高さを変えず、上半身はどれだけスピーディに振れるか、という動き。ドライバーではもう少し頭の下がりを抑えた方が良いですね。クラブが長くなるほど、体がつかえ気味のように感じます。
ミッシェル・ウィ Michelle Wie
やっぱり飛距離が売り、というイメージですね。スイングは改善されてきたように感じます。以前まではインパクトでひじが詰まり、腕が余っていた印象があったのですが、腕の抜けが自然でキレイになりました。アドレスでは上腕を上に捻り、両腕の三角形を小さくし、肩回転がしやすいスイングに仕立てています。誰もが思っているはずですが、今の位置に収まっている選手ではないですよ。持って生まれた体格やスケールの大きさからすれば、もっともっと上に名前がでてきてもおかしくない。私が思うには、圧倒的な飛距離を誇るがゆえに、そのこだわりが強過ぎるような気がします。飛距離にこだわらなくなった時に、彼女の本当の姿が見られるのではないかと思います。
スーザン・ペターセン Suzann Pettersen
身長の高さもあると思いますが、ドライバーのアドレスではもうちょっと左足寄りにボールを置くのがナチュラルだけど、グリップの位置とボールを体の中心近くに置いているのが1つの特徴ですね。次に面白いのが、バックスイングを上げていく時に、首の位置が右側に動くように見えます。ここまで動いていいのかな、と思うかもしれませんが、実際には首の付け根部分は動いていない。このようなタイプは肩の力が強いのでしょう。体の右サイドに全体重を乗せて、体に一番近いところにクラブを鋭角に、ムチのように振り下ろしています。腕と肩の使い方に無駄がなく、フィニッシュで左右の肩の高さが変わらない良いスイングですね。
- 森口祐子(もりぐちゆうこ)
- 1955年4月13日、富山市生まれ。学生時代はバスケットボール選手としてならし、18歳でゴルフを始める。75年プロテストに合格すると翌76年に賞金ランク17位、77年には同5位に輝き日本プロスポーツ新人賞を受賞。78年の「ワールドレディスゴルフ」で初優勝を飾り、81年には米国女子ツアーの予選会をトップ通過する。結婚、出産を経てもツアーに参戦し92年に通算30勝を達成し永久シード権を獲得。現在通算41勝。現在は主にテレビ解説などでゴルフ界を盛り上げ、歯に衣着せぬ核心をついたコメントには定評がある。血液型はA型。