【WORLD】メジャー最終戦の舞台 キアワアイランド
Golf World(2012年8月6日号) texted by Mike Stachura
コース設計家ピート・ダイには、何を聞いても全うな答えが返ってくることはない。年を聞いてみても、何年に生まれたかは言わないし、周囲が聞いて納得するような年齢も言わない。シンプルに2桁の数字を言うこともないだろう。せいぜい、「172の半分」と、自分だけが満足するように、しかもいたずらっ子のように口元を上げて言うだけだ。彼は、彼自身の持つデザイン哲学と同様に、あいまいな道ではありながらも相手に何か一つの明確な道筋を持たすことが好きらしい。
今週開幕する「全米プロゴルフ選手権」が開催されるキアワのオーシャンコースこそ、ひょっとするとダイにとって最低限の明瞭な答えであり、極めて正直な答えなるのかもしれない。海に囲まれた2.5マイルほどの細長いこのコースこそ、彼自身、そして彼の仕事に対する手法をストレートに表現した作品なのかもしれない。紛れもないほど美しく、自然の偶然による産物。その環境はゴルフにおける根本的な部分を教育し、コース内のデンジャーゾーンでは、鍛えられた技術も、困惑と驚嘆により崩壊する。どのホールからもオーシャンビューを臨むことができるこのコースを、ダイは”惹きつけられる何か”と呼びたがるが、このコースデザインこそゴルフの恐怖を感じさせ、故に同コースが特別な存在になっていると言える。
「ピートの才能を駆使した作品の中でも、このコースは飛び抜けた存在でしょう」と語るのは、キアワアイランドリゾートで1985-2001年までゴルフメンテナンスディレクターをしていたジョージ・フライ。フライは1989年から91年までの間、ダイと共に91年のライダーカップ開催地に決まった同コースの設計に携わった。「私が思うに、ピートはどのコースであろうと、一生に一度の経験のようにしたいと考えていると思います。一生というのは長い歳月ですし、そういう景観に出会うにも時間がかかりますからね」。
このオーシャンコースのダイナミックな景観に勝るコースは北米にはないかもしれない。ダイはキアワを完成させるにあたり、当時の州知事だったキャロル・キャンベル氏のオフィスを訪問し、土地の境界線に関わる問題の解決法を探した。この20年もの間、同コースをけん引してきたことは、「ワールドカップ」開催、「全米シニア選手権」開催、「ライダーカップ」開催という事実をもしのぐことだ。
ダイが思案を重ねに重ねた仕事により、PGAウエスト、TPCソーグラス・スタジアムは選手にとっては拷問のようなコースに仕上がった。しかしオーシャンコースの厳しさは荘厳(しょうごん)でいて、まるで勇気づけられるように思えてしまう。だからこそ真のゴルファーたちがプレーを希望する。彼らは地元ではドライな気候でプレーが楽しめるというのに、わざわざ飛行機でやってきては、雨風の中を2週間はプレーしていく。これほどまでの難所になぜゴルファーが引き寄せられるか、それはダイにとって気になることではない。自然に引き寄せられる魅力ほど重要なものはないと考えているからだ。
ここまで書けば、長きに渡り世界最大の難所とされているオーシャンコースの難易度も理解できるだろうか。10のコーストラインホール(海岸に面したホール)は、北半球のどのコースよりも人を惹きつけることができるはず。ティによっては最大で7937ヤードにまでヤーデージを伸ばすことも可能。PGAの公式ヤーデージでは、7676となっているものの、それでもメジャー大会開催コースとしては最長となる。もちろんティの場所も柔軟に変更ができるため、距離は短縮することも可能。スコアカードには記載されていないが、コースの末端を含め、全米ゴルフ協会(USGA)が定めるスロープレーティングは155、コースレーティングは79.6と、いずれもアメリカ内では最高値をマークした。2011年には米国ゴルフダイジェストが定めた、世界で最もタフなコースとして認定され、その難易度はパインバレー、オークモント、そしてベスページブラックをしのぐ。