WGCブリヂストンインビテーショナルの魅力
■トラブルショットメモリー
前身の「NECインビテーショナル」時代から、この大会で無類の強さを誇ってきたのがタイガー・ウッズだ。2度の3連覇を含む通算7勝。WGCとなってから、半分以上の大会を制している。中でも、2006年に見せた一打は、タイガーがこれまで披露してきた数々のスーパーショットの中でも珍しいもの。2日目の最終9番ホール。ラフからの第2打でグリーンオーバーした打球はカート道路で跳ね上がり、クラブハウス方面へと転がってしまった。長い捜索の後、発見されたボールはOBとはならず、無罰で救済を受けることができたが、18番のグランドスタンドを超えるショットが求められた。しかしさすがはタイガー。この第3打を見事に成功させてグリーンオン。2パットでボギーを拾って大ピンチを切り抜け、勝利へとつなげたのだ。
また、2010年大会では優勝したハンター・メイハンもグリーン奥からのトラブルショットに成功。そして昨年11年には日本の石川遼が初日に米国のギャラリーを大いに湧かせた。最終18番でティショットを左に曲げた石川は、第2打でグリーンを狙ったものの、ボールは大きく左にそれ、テントの屋根を直撃し、コース内にある民家のガレージに飛び込んでしまった。無罰で救済となったが、ガレージの柵の外からは動かせない障害物があったため、再び柵の内側に戻ってドロップすることに。
そしてこの3打目を見事にピンそば3メートルにつけるスーパーショットを見せてパーセーブした。2日目以降、石川は勢いに乗り、米ツアーで初めて最終日最終組を戦ったことも記憶に新しい。同組のアダム・スコットの前に敗れたが、当時、同ツアーで自己最高位となる4位タイに食い込む活躍を見せ、近い将来の米挑戦へ大きな自信を手にした。
■トーナメントを支える理念
ロープの内側で繰り広げられるプレーヤーの熱戦。その華々しい舞台を彩るのは、多くのボランティアの人々によるところが大きい。1試合におけるボランティアの数はのべ3000人にも上る。その多くが、ブリヂストンの技術センターの勤務者やその家族だという。コース、スポンサー、それを支える地元の人々が三位一体となった2006年以降、大会がかねてから掲げてきた「地域密着」の精神は一層深いものになった。
「この大会をアクロンの地で行うことで、地元への経済効果は30ミリオンドルとも言われています。我々はボランティアの方々、地域の方々に対し、貢献する義務があります」とは同社コーポレートコミュニケーション本部の松本和己ブランド推進部長。ブリヂストンはNFLスーパーボウルにおけるハーフタイムショーのほか、NHL等においてもスポンサー活動を展開しているが、よりグローバルで、なおかつピンポイントで地域貢献が可能なゴルフトーナメントの開催には大きな意義がある。
PGAツアーの理念のひとつであるチャリティにも積極的で、大会の収入の一部は地元の発展に寄与。また、今年は乳がん撲滅運動を推進するピンクリボンの活動を実施し、大会最終日の日曜日には賛同するスタッフがピンクのシャツを着用して運動をアピールする。
昨年はタイガー・ウッズの故障からの復帰戦という大きなトピックスもあり、早朝の練習ラウンドからテレビ放送が入るほどの盛り上がりを見せ、期間中の来場者は7万人を超えた。今季はそのタイガーがメジャーでの優勝こそ無いものの、既に3勝を挙げ、賞金ランキングトップを走っている。また、ディフェンディングチャンピオンのアダム・スコットが、先の全英オープンで終盤に崩れてアーニー・エルスに敗れるなど、ビッグネームたちの話題は尽きない。「アメリカにおいて、長く愛されていくような大会になってもらいたい。日本では、まだ馴染みが無いトーナメントかもしれません。認知度がさらに高まってくれることを祈ります」と松本部長。8月2日(木)。今年も真夏の大地で、熱戦がティオフする。