米国男子ツアー

【WORLD】オーストラリアの不思議 「ザ・プレジデンツカップ」レビュー

2011/12/01 10:08

Golf World(2011年11月28日号)by John Huggan

母国で2大会連続となるキャプテンを務め、またも結果を出せなかったグレッグ・ノーマン (Photo by Cuban Jon)

グレッグ・ノーマン率いる世界選抜チームが「ザ・プレジデンツカップ」で敗退した。しかし、この結果でオーストラリアのゴルフファンと、かつてオーストラリアの英雄とまで言われたレジェンドとのぎくしゃくした関係性に変化が表れることはないだろう。

思えばファンとノーマンの関係性は常に複雑で、決してストレートなものではなかった。愛情と憎しみが交錯し、軽蔑、侮辱等々、あらゆる感情の狭間に成り立っているものだったからだ。それでも確かなことがひとつ存在する。それは、人口2200万人という大陸のゴルフファンは、自国を代表する世界的なアスリートが率いたチームが、再びプレジデンツカップで負けたという事実にうんざりさせられたということだ。

世界を股にかけ成し遂げた通算91勝という輝かしい成績は、誰もが達成出来ることではない。しかし、地元オーストラリアのファンのノーマン評は、”勝つべき時に勝てない”というもの。その代表的とも言える例は、1996年マスターズでのこと。3日目まで単独首位としながら、最終日に逆転負け。1986年のメジャー4大会では最終日まで首位につけていたが、僅か1回の優勝に終わったのだ。

「もし、全英オープン通算5勝のピーター・トムソンが、グレッグの代わりにメジャー大会のラスト3ホールを回っていたら、ノーマンのメジャー優勝は2勝ではなく8勝になっていたはず」とは、元ヨーロッパツアープロでオーストラリア出身のマイク・クレイトンの談話。「ピーターは感情をコントロールしてプレー出来るが、グレッグはどうかな。彼ほど高いレベルで自分自身を抑えられるかは、私にはわからない。デビッド・フェハティが最近グレッグにこう訊ねたらしい。『自分のキャリアで変えられることがあるとすれば、何を変えた?』とね。彼の答えは『スポーツ心理学者を雇っただろう』だった。しかし、彼にはそんな連中は必要ない。ピーター・トムソンと話をすれば済むわけだから」。

ノーマンの人目を引くライフスタイルもまた、オージーファンから反感を買った理由でもあった。プライベートジェット、結婚と離婚、それに大邸宅。ノーマンについてよく知っているというあるプロゴルファーは「グレッグについては、『目立ちたがり屋』、或いは『自信過剰』という形容詞が頻繁に使われることが多かった。キャリア前半ではジャック・ニクラスになろうとし、キャリア晩年ではケリー・パッカーの残像を追いかけ続けた」と、華々しくも脆いキャリアを説明しているほど。

もっとも、世界ランキング1位に君臨し続けた全盛時には、多くのオージーファンをトーナメントに呼び集める効果を発揮。たくさんのファンに愛され、自国を代表するアスリートとして尊敬されていた。

しかし、そんな栄光も過ぎ去り、今では彼に対する反感や憎悪の方が圧倒的に多くなってしまった。ノーマンがオーストラリアでプレーする機会があっても、誰も関心を示さない。そんな光景が当たり前になってしまっている。最近の例では、エミレーツ・オーストラリアン・オープンに出場した際にも、ファンは一切ノーマンに触れず、実際のプレーを観戦したファンからは「ただスイングしているだけ。それだけ」、「本当に好かれていないから」という意見が寄せられる等、ノーマンへの風当たりは強い。

ファンとの関係性は予想出来たことだが、実の父親との関係性についても、地元では「距離の離れた関係」として認知されてしまっている。父親との関係性について、最も大きな批判に繋がったのは、最近他界したジャーナリスト、トム・ラムジーが残した原稿が原因ともされている。

今年はじめ、ラムジーはこの世を去る直前にオーストラリア版ゴルフダイジェストのインタビューに応じ、ノーマンの父マーブとの会話の内容を明らかにした。「マーブは私に常々、『息子のことを書いてやってくれ』と言っていました。残念ながら、そのことをグレッグ本人に伝えることは出来ませんでした」。

こうした事実により、かつてツアーを一緒に戦ったゴルファー、そして近年のスター選手達もノーマンと距離を置くようになっていった。過去に報道された記事、性格等を鑑みても、世界選抜チームを指揮し、国と国の威信をかけた戦いのリーダーに任命されるには不適合という意見が圧倒的だった。

最終的に世界選抜はアメリカ選抜に4ポイント差をつけられ敗北した。ノーマンは敗因を自分の判断ミスではなく、2人で1つのボールを交互に打つフォアサム形式が11試合もあったことと主張(世界選抜は3勝8敗)。そして大会ルール自体が不利に働いたとした。

ノーマンは、「フォアサムとフォアボールを交互にやるようなルールにする必要性は無い。私の考えでは、ホスト国に試合形式を選択する権利を与えるべきだ」と訴え、またキャプテンが2名(今回、オーストラリア出身のアーロン・バデリーロバート・アレンビーを選出したが、2人は合計1.5ポイントを獲得するにとどまった)しか選抜出来ない現在のルールに強く反発。キャプテン推薦枠とされるワイルドカード枠(2人)についても、4人に増員すべきと主張している。

「誰もがチームを選抜する際の基準を等しくすべきと主張している。我々は世界ランキングを基準にしているが、アメリカは獲得賞金を基準に選手を選抜している。その時点でチームの実力に差が生まれてしまっている」。

そして「ライダーカップも、大幅なルール変更がされイギリスチームに大陸側の選手が加わるまでは、今ほどの知名度はなかった。このプレジデンツカップも似たような問題を抱えている。選手のバランスは均等だとは思うが、選手を選抜する基準でハンディキャップを抱えているようなものだ」と付け加えた。

そうしたハンディは大会を主催するPGAによる策略か?と問われたノーマンは、ただ笑顔をみせ、肩をすぼめる。それは、誰の目からみても、こちらの問いかけに同意している風だった。

ではキャプテンとしての手腕はどうだったのか?それは結果をみれば明白。シャイで遠慮がちのアダム・スコットと、英語が喋れないキム・キョンテというコンビでは、試合前から負ける可能性が高いことは誰にでも予測出来る。同様に地元出身でプレッシャーのかかるジェフ・オギルビーと、調子を落としていたロバート・アレンビーという2人を組ませたのにも疑問は多い。更に大会を通して不調に喘いだジェイソン・デイをチームに加えた決断も、結局はノーマンのミスだったと言える。

「初日の朝の時点では、選択したペアが最も勝てる可能性があったと思っていた」とは、アシスタントキャプテンのフランク・ノビロ。「アーニー・エルス石川遼のペアは3アンダーをマークしたのに負けたが、全ての試合で勝てていたと思う。アダムとKJ(チェ・キョンジュ)も4アンダーをマークしたんだ」。ノビロは続けて「フォアサムは非常に厳しい試合形式。前回大会でも弱点だったし、今回も同様の結果になった」と語っていた。

結局、世界選抜はアメリカ選抜に敗れた。その敗因はプレーしなかったキャプテンにあるかどうかはわからない。しかしながら、開催国となった大国オーストラリアのファンの大半は、今回の結果に同情などしない。それは、グレゴリー・ジョン・ノーマンにとっても、何ら不思議ではないことだろう。

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