2014年 全英オープン

立ちはだかる高い壁 メジャー2勝の領域

2014/07/17 10:51

By Helen Ross, PGATOUR.COM

届きそうで届かないメジャー2勝目・・・その壁を次に超えるのは?(Rob Carr/Getty Images)

アメリカ南部出身のバッバ・ワトソンにとっては、テラス付きの家で上等なティカップを手にするよりも、田舎に住み、バーベキューをする方が快適でいられる。感情表現が豊かで、類稀な創造性に恵まれた選手として知られるワトソンが、2年前の「マスターズ」で見せたギャップウェッジでのスーパーショットは忘れられない。

マーティン・カイマーは生粋のドイツ人で、今年のサッカーワールドカップで母国が優勝したからというわけでもなく、自分の国に誇りを持っている。規律を重んじ、強い意志を持つ彼は、同じドイツ出身のベルンハルト・ランガーと似たタイプ。他国出身者がドイツ人と聞いて声にする思い込みなど気にすることはない。むしろ、先祖代々受け継がれてきたルーツと捉えているという。

「何かを作れと言われたら、ドイツ人は何年も長く残るものを作る。ドイツで家を建てれば1800年はもつだろうね。それはドイツ車を見てもわかると思う」と胸を張るカイマーは、「自分はドイツの広告塔だと思っている。それは、質の高い仕事を長く続けるということ。ゴルフコース上で表現したいことだ」と語った。

今週ロイヤルリバプールで開催される「全英オープン」に出場する両者は、2014年のメジャー優勝者でもある。

カイマーは、先月パインハースト開催の「全米オープン」で、ドイツ出身らしい正確なショットで2位との差を広げ、8打差で圧勝。その2ヵ月前には、オーガスタナショナルで再び“バッバ・ゴルフ”が見られ、ワトソンがヨナス・ブリクストジョーダン・スピースに3打差をつけて優勝した。

彼ら2人にとってメジャー通算2勝目となる勝利。これは、偉業と呼んで良い。

男子プロゴルフ史上、合計208人がメジャー優勝を果たしている。だが、その内の62パーセントにあたる129人は1勝しか挙げられていない。

メジャー2勝以上は特別な領域。1997年の「全米オープン」で2度目のメジャー制覇を成し遂げたアーニー・エルスの言葉を借りると、「これで別次元に入れる。多くの選手がメジャーで1勝を挙げているけれど、自分は2勝目だからね」ということらしい。

その後エルスはメジャーで2勝を追加し、更なる高みに到達した。今年の「全英オープン」に出場する選手の中で、エルスよりもメジャー優勝回数が多いのは、タイガー・ウッズ(14回)、トム・ワトソン(8回)、ニック・ファルド(6回)、フィル・ミケルソン(5回)のみ。

彼らの領域への到達を夢見るためには、最低でもメジャーで1勝以上という成績が必要だ。ワトソンとカイマーは今年メジャー2勝目を挙げたが、メジャー複数回優勝を満たしている選手は少ない。

直近23試合のメジャー優勝者のうち19人が初優勝で、既に優勝を経験していたのはカイマー、ワトソン、ミケルソン、そしてロリー・マキロイだけだった。ウッズはジャック・ニクラスの18回優勝という大記録の更新を目標に掲げているものの、2008年の「全米オープン」以降、メジャーで勝てない日々が続いている。

今年は腰の手術を受けた影響でメジャー2試合の欠場を余儀なくされ、ホイレークでの今大会が今季初のメジャー出場となる。それ(メジャー制覇)がいかに難しいことなのかは、誰よりもウッズ本人が承知している。

「年を重ねるごとにコースの難易度も上がっているから、難しくなっている」と胸の内を明かしたウッズは、下の世代の台頭についても言及。「多くの選手にメジャー優勝のチャンスがある。今は差も少なくなっているし、これからもそういう傾向は続くだろうね。飛距離も伸びているし、プレーのペースも速くなっている。以前よりも大きく、強く、プレーが速い、そして身体能力に優れた選手の数が増えているから」。

今大会に出場する選手の中には、キャリア全盛期を迎え、ワトソンとカイマーと同じメジャー2勝組に入る可能性が高い選手もいる。その代表格は、昨年メジャーを制したアダム・スコットジャスティン・ローズジェイソン・ダフナーだ。

ローズは昨年のミケルソンと同じく、「アバディーンアセットマネジメント スコットランドオープン」優勝で弾みをつけて「全英オープン」に挑むが、その前に出場した「クイッケンローンズ・ナショナル」でも優勝するなど、調子は上向いている。

「数字だけを見れば、『全英オープン』との相性はあまり良くないように見られる。メンタルの持ち方を変えて臨む必要があるということ。幸いにも先週は上手くいった」とローズ。

対照的なのはスコットで、ここ2年の「全英オープン」では2位と3位という結果を残した。2012年大会では、3日目を終えて2位に4打差をつけて首位に立ったにも関わらず、逆転負けを喫した。だが、この2ヵ月は世界ランキング1位を守り続けている。

スコットは、「今はキャリアで最高のプレーができているから、この強みを生かして優勝争いをしたい」と静かに闘志を燃やす。

スコットら以外にメジャー2勝達成のチャンスを持つ17人の中には、2010年「全米オープン」覇者のグレーム・マクドウェルもいる。ペブルビーチでキャリアを変えたマクドウェルだが、それ以降出場したメジャー16大会でトップ10入りを果たしたのは僅かに2回。本人もこの流れを変えたいと強く願っている。

「1発屋にはなりたくないからね」と語ったマクドウェルは、メジャー優勝の難しさを知る1人。「可能な限りメジャーで勝つチャンスを得たいけれど、本当に難しい。毎週毎週、世界の素晴らしい選手が現れるからね。レギュラートーナメントでの優勝も難しいけれど、メジャーは別物。本当に特別な大会だと思う」。

メジャー2勝とは、それほど特別なことなのだ。

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