2014年 全米オープン

グランドスラム達成に向け「全米オープン」に臨むミケルソン

2014/06/09 13:54

By Sean Martin, PGATOUR.COM

ツアー随一のアプローチ技術を誇るミケルソンが初の全米OP制覇に挑む(Stephen Dunn/Getty Images)

6月8日の朝7時少し前、フィル・ミケルソンは1人、TPCサウスウィンドの10番ティへと歩いていた。ロープの内側200ヤードを横切ったり、関係者が誘導する必要はなく、彼のキャディのジム・マッケイが10メートルほど後を付いていくだけだった。わずか2、3人のボランティアスタッフとすれ違ったミケルソンは会釈して笑顔を見せ、残した第3ラウンドを終えるため進んでいった。

悪天候で何度も遅延したことで「フェデックス セントジュードクラシック」最終日は通常よりも早い時間からのスタートを余儀なくされ、ミケルソンはこの日だけで27ホールをプレーした。この時、彼のティショットを見ようと集まったファンは数名のみ。ミケルソンが同組でプレーするジェイソン・ボーンパドレイグ・ハリントンと天気や朝食について会話をするのが聞こえるほどの静けさだった。彼らは遅れていた第3ラウンドの途中だったため、ティショットをアナウンスするスターターもおらず、ボーンはホーンが鳴ってから数秒でティショットを放った。

数日後に何がミケルソンを待っているかを考えると、これはかなり奇妙な場面だった。「全米オープン」前の数日を占めるのは、次の2つのストーリーラインだろう。1つはパインハーストNo.2コースの大胆な改修、そしてもう1つは、優勝トロフィではなくトラウマをミケルソンにもたらしたコースでのキャリアグランドスラム達成への道だ。

「ワクワクしているよ」と言うミケルソン。「パインハーストはとても気に入ってるんだ」。

パインハーストNo.2コースは、大胆なティショット戦略にリスクのあるリカバリーショット、そして力強いショートゲームといった、ミケルソンの持つ強さの多くが報われる場所に思える。複数のホールでは、ティショットでの大胆な戦略をプレーヤーに選択肢として与えている。短く刈られた芝の外にある砂地はフェアウェイを逃した際に乗り切るチャンスを与え、パインハーストのドーム型のグリーンは、厳しいショートゲームテストを課すことだろう。

「誰もパーオンできなければ、自分が最高のチャンスを手にしていると感じるんだ」と話すミケルソン。「全米オープンでの可能性を楽しみにしている。ショートゲームが重要な要素になるからね」。

先週月曜日にミケルソンと一緒にパインハーストでプレーしたリッキー・ファウラーは、このコースはミケルソンが最も成功を収めたメジャー大会の会場、オーガスタナショナルGCにかなり似たものとなる可能性を示唆している。

「オーガスタ同様、パインハーストにも打てば後がない場所がある」と、ファウラー。「来週の全米オープンでは、自分が情けない存在に思える時があるだろう。(コースには)どうやっても無理としかいえない場所がいくつも出てくるだろうから。だけどフィル、そして彼のショートゲームにはうってつけの場所だと思う」。

ファウラーは自身とミケルソンが、ドナルド・ロス設計コースでの“ありえない”スポットから何度もショートゲームに挑んだと告白。パインハーストの芝は、グリーン用とフェアウェイ用の2種類の高さにしか刈られていない。砂地でのアンプレヤブルの可能性もあるので、フェアウェイキープがものをいうだろう。

「全米オープン」直前の「フェデックス セントジュードクラシック」では11位タイに終わったミケルソン。これは彼にとって今季最高の成績だが、同時に今季のPGAツアー14試合でトップ10入りを果たしていないことも意味する(5月の「ウェルズファーゴ選手権」でも11位タイだった)。

大会が終わってメンフィスの地を去る今、ミケルソンは今回のプレーをどう評価するのだろうか?

ティショットは? 「かなりよく飛ばせていると思う」(ミケルソン)

アイアンでのプレーは? 「今回の最終ラウンドではあまりよくなかった」。

パットは? 「目も当てられないよ」

ミケルソンは今大会で、2013年の「全英オープン」で優勝した際に使っていたのと同じパターに変更。彼はここ数週間、ブレード型パターを使っていた。「ちょっと違った感触を得るには、パターの変更もやむをえない」と言うミケルソン。最終日の途中からはクロウグリップにも戻した。

彼は「(来週の「全米オープン」では)今週よりもさらにいいパットをする必要があるし、アイアンも少し調整しなければいけない。だけど何よりも4日間をしっかりと戦いたいんだ」と、意気込みも語っている。

ミケルソンのメジャー大会での優勝歴は、今大会最終日にTPCサウスウィンドの18番グリーンへと歩いていた彼を見ればわかる。観客のスタンディングオベーションでグリーンを後にした彼は、キャリアグランドスラム達成という次のミッションへと向かった。

今回の「全米オープン」での優勝は、複数のストーリーラインの集大成になるだろう。昨年の「全英オープン」での劇的な勝利はミケルソンに、残り1つ「全米オープン」を制すことで、ジーン・サラゼンやゲーリー・プレーヤー、ベン・ホーガン、ジャック・ニクラス、そしてタイガー・ウッズだけという、現代のメジャー4大会を制した男子プレーヤーの仲間入りをする可能性をもたらした。

ミケルソンが「全米オープン」で初めて2位になったのは、パインハーストNo.2コースでの大会だった。ペイン・スチュワートが1999年の大会の最終ホールで5メートル半のパーパットを沈め、ミケルソンを1打差で下したのは有名な話だ。当時のミケルソンは、妻のエイミーさんが初めての出産に臨むのを知らせるポケベルをバッグに忍ばせてプレーしていた。

「(パインハーストには)素晴らしい思い出がたくさんある。優勝は逃したけどね」と、ミケルソンは振り返る。

ミケルソンが「全米オープン」で最後、そして最高記録でもある6度目の2位になったのは、昨年のメリオンゴルフクラブでの大会だった。彼は10番ホールで75ヤードのウェッジショットを決めて首位に立ったが、終盤6ホールで3ボギーを叩き、ジャスティン・ローズから2打差に後退した。ミケルソン、そして昨年大会を制したローズは今回、全米アマチュアゴルフ選手権の勝者マシュー・フィッツパトリックとともに、予選ラウンドを回る予定だ。

舞台は整った。それがミケルソンにとって“救い”になるのか、それとも新たな悲劇の物語となるかは、終わってみないとわからない。

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