“広場恐怖症”を抱えるもバスに20分挑戦 菅沼菜々の勇気と希望
◇国内女子◇パナソニックオープンレディース 最終日(4日)◇浜野GC(千葉)◇6751yd(パー72)◇晴れ(観衆3959人)
「勇気はいりました。でも、乗って行けそうだなって―」。広場恐怖症を抱える菅沼菜々にとって、公共のバスに乗るのはとても勇気がいることだ。
高校2年生の時に突然、電車に乗っていると大きな不安感に襲われた。当時は周囲に無関心になる無気力症候群と診断されたが、プロ転向後に広場恐怖症(特定の場所で強い恐怖や不安を感じる病気)と判明した。菅沼の場合は、試合遠征に欠かせない飛行機や電車といった公共交通機関を利用するときに大きく症状が出た。プロ2年目のときは北海道の大会に出るために時間をかけて電車に乗って向かったが、青森まで来て断念したこともあった。
ドーピング検査に違反する恐れもあり、薬は飲めず、現在も病気は完治していない。「特に今は病院に行ったりはしていないけど、でもこの間バスに乗る機会があって。(ゴルフで)どん底に落ちたから気持ちも強くなったのか、『乗ってみよう』って。駅まで20分。ひとりでバスに乗れるようになりました」。勇気を出して踏み出した“一歩”。バスに続いてタクシーにも乗った。これまではできなかったことが、できるようになった。
「アイドルが好き」と公言し、自らもファンを大事にしてきた。成績不振の時もSNSを積極的に更新した。「成績が悪いときに発信すればするほど“火に油”というか…。反対的な意見がすごく多くて発信するのが嫌になった時期もあったけど、私は頑張るだけ。ゴルフをもっと広めたい―と自分ができることをしたいので発信していた」。それも、自身がファンに支えられたという自覚があったからこそ。
昨季は成績不振に陥り、102位で終えた予選会(QT)から1カ月半ほどクラブを握るのをやめて“休養”を挟んだが、そこからまた今大会で2年ぶり3勝目をあげて復活できたのはファンの存在がある。
「1月にファンミーティングをやって、その時にたくさんの方からパワーをいただいた。今年も頑張んなきゃ、と練習を再開しました」。この日17番(パー5)でボギーを喫して雲行きが怪しくなったが、「18番までのインターバルのところでたくさん声をかけてくれて。そこが一番泣きそうだった。本当にありがたいなって」とエールを力に頂点に立った。
「ひとりでも誰かに勇気や希望を届けられるようにしたい」。1年194日ぶりの復活Vが誰かの力につながることは間違いない。(千葉県市原市/石井操)