語気を強める藤田寛之「自分が賞金王ではダメ」
声を大にして、やっぱり言わずにはいられなかった。43歳にして賞金王の座にたどり着いた藤田寛之は「ゴルフ日本シリーズJTカップ」を戦い終え、痛烈なメッセージを発した。「自分が賞金王になるようなツアーではダメだ」――。
年間25試合のシーズン最終戦。同大会史上初の3連覇、そしてマネーキング、年末の世界ランキング50位以内の確保。目標としていたものすべてを手に入れた藤田は、「今まで誰もやったことの無い3連覇は歴史に名を残せる。非常に嬉しい。賞金王というのは、ここへきて周りの声や期待もあって意識し始めたけど、それも無事に取れてよかった」と達成感や喜びを噛み締める一方で、複雑な思いも吐露した。
それは何も、この日初めて口にしたわけではない。「年間20試合以上ある日本のツアーから、なぜ世界に通用する選手が出てこないのか」という後輩たちの奮起を促す言葉。「ジャンボさん、青木さん、中嶋さんのあとは丸山(茂樹)、田中秀道・・・でもその後、いまや世界で活躍する日本人がいないんじゃないかと思う。自分としても悔しい」と息を吐いた。
「世界に40代がそうなっている(頂点に立っている)スポーツは無いですよ」と言う藤田。意地悪く見れば、今年、全英を制したアーニー・エルスと藤田は同じ69年生まれで、スティーブ・ストリッカー、フィル・ミケルソン、ジム・フューリックらも同世代といえる。だが「リッキー・ファウラーやロリー・マキロイ、あんな世代が日本にいても良いはず。だから(石川)遼とか、その世代に頑張っていただかないと」と語気を強める。
今季賞金ランキング2位となった谷口徹も、もちろん同じだ。「若手にはもっと自覚を持ってやって欲しいですよね。僕らには『優勝争いをしないといけない』という自負と言うか、責任感がある。そういう選手じゃないと強くなれない」と言った。「来年も、“韓国人プロ対藤田・谷口”かな。それじゃ寂しいけどね」。
2人は、ただ根拠の無い苦言を呈しているわけではない。きっと彼らにもできるはず、もっと頑張れる、心底そう思うからだ。藤田の思いが確信に変わったのは11月の「ダンロップフェニックス」。ルーク・ドナルドとラウンドをともにし「同じタイプの選手なのに精度が高すぎて、息苦しくなった」としたが「168センチの自分のゴルフでも、生き残る方法はあると思う。実際にルークのようにドライバーの飛距離も、アイアンの番手も同じくらいの選手が、世界ランクトップになった。同じ人間としてできるはず」。意識と環境次第で、“言い訳”はできなくなる、と。
ボヤキ、ネガティブ、マイナス思考・・・ベテランにはいつもそんな代名詞が、まとわりつく。だが「自分は古きよき日本の『厳しく自分を評価して、そこから這い上がる』という考えを持っている。確実な、“本物を”見つける作業をしているだけ」と言い切る。明確なビジョンも、努力もなく、描いた理想に漠然と向かうのは、それと対極にあるポジティブ・シンキングではない。「それはプラス思考ではない、と声を大にして言いたい」。
新しい賞金王が、寂しげな表情を浮かべたのはその後だった。43歳にして肉体面での急激な衰えは感じずにすむくらい、トレーニングを重ねている自負もある。だが「時間的限界は感じる」と言う。「ゴルフはすぐにはうまくならない。自分には上手くなるために要する時間がない。自分は天才でもなんでもない。上手くなるために時間を要してきた」。師匠の芹澤信雄は「藤田のピークはまだ先かもしれない」と言ったが、それは5年後、10年後といった単位ではない。
だからこそ、時間のある後輩たちに思いを託したい。「ゴルフはやればやるほど、追求すればするほどうまくなるはずなんです」。藤田は、谷口は、シーズンを通じてそんな思いを体現して見せたのだから。(東京都稲城市/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw