全米シニアOPに臨むチャンピオンたちの想い:T.カイト
by 小松直行
トム・カイト(52)は全米オープンチャンピオンだ。米国男子ツアーで19勝、シニアツアーでも5勝。2000年にはシニアツアーのメジャーの一つであるカントリーワイド・トラディション(Countrywide Tradition)にも優勝しているが、カイトの目指しているのはやはりナショナル・チャンピオンシップなのだろう。今年の全米シニアオープンの舞台ケイブスバレー(Caves Valley)はトム・ファジオの設計による1991年開場という若いコースで、先の全米オープンのベスページ同様に未知数は多いが、カイトは関係ないという。
「オープン・チャンピオンシップなら、どういうコースなのかは分かろうというもの。ゴルフの大いなる試練、最も厳しく、かつ最も公正なる試練になるのです。どこで開催されようが、我々は準備を整えて臨まなくてはなりません。私もそれができていると思いたい。楽しみにしています」
全米オープンと全米シニアオープンをともに制したプレーヤーはこれまで7人。ビリー・キャスパー、ヘール・アーウィン、オービル・ムーディー、ジャック・ニクラス、アーノルド・パーマー、ゲーリー・プレーヤー、リー・トレビノ。8人目となることをカイトは目指している。
カイトは今季2勝している。1月の初戦マスターカード・チャンピオンシップに勝ち、3月のSBCシニアクラシックではプレーオフの末、優勝を果たしている。全米シニアを控えた6月24日時点でのシニアツアーにおける各種プレーの記録は、ティショットの平均飛距離が277.9ヤード(7位タイ)、フェアウェイを捉える精度が73.1%(19位)、GIR(グリーンズ・イン・レギュレーション:パーオン率)は74.7%(1位)。それらを総合したボールストライキングという指標でナンバーワンにランクされている。一方で、ふるわないのはパッティングで、アベレージは1.800(36位)、1ラウンドあたりの平均パット数が30.42(81位)となっているが、シニア入りして以来、ショットに関してはこれまでのキャリアの中で最も好調だと言うカイトの言葉が裏づけられていよう。
今年の全米オープンの2日目、全長7,214ヤードパー70のベスページには冷たい雨が降り続き、風も吹いていた。フィールドには今をときめく世界の若手プレーヤーがひしめいていながら、平均スコアは76.478、カットラインは10オーバー150。その日、カイトは73で回った。パー4が長すぎるとぼやき、悪天候でも中断しなかったUSGA(全米ゴルフ協会)に不満もあらわなプレーヤーたちの中にあって、カイトは淡々と自分のプレーを振り返っていた。
「コース設定は素晴らしかった。コース・コンディションは非常に難しいものだった。私にとって思い出せる限りでも、最もたいへんな一日だったと思いますが、うまくプレーできた。もう疲れ切ってしまいましたが、今日の自分のプレーには大変満足しています」
思い起こせば1992年のペブルビーチでの全米オープンの最終日もそうだった。ひどい風が吹き、フィールドの平均スコアは77を越えていた。しかし、カイトはスコアを72でまとめ、初の、そして自身唯一のメジャーをものにした。その日のカイトのプレーぶりはゴルフ史上最高の優れたパフォーマンスのひとつに挙げられており、自身もそれを認めている。
「あの状況ではそうですね。おそらく私にとっても最高のラウンドであったと思います。私のキャリアの中で素晴らしいラウンドはいくつかありますが、あの最終日は間違いなく私のハイライトでしょう。それは私がメジャーの優勝をつかんだからというばかりではなく、いかにプレーしてそれを成し遂げたかということのためです。
しぶといだけではない。2001年のサザンヒルズでの全米オープンでは最終日に64という、きらめくようなスコアをものにして、ファンを驚かせた。
「チャレンジすることを楽しめないなら出場する意味がない」
シニアとなってもなお燃え続けるゴルファーの情熱。ナショナル・チャンピオンシップでのカイトの存在感は今年も大きい。
<参考文献>
* http://www.ussenioropen.com/press/kite.html
著者プロフィール
小松直行(こまつ・なおゆき)
1960年横浜生まれ。GDO(ゴルフダイジェスト・オンライン)スタッフライター。CS放送におけるゴルフ中継アナウンサーとしても活躍中。筑波大学卒。東京大学大学院修士課程修了、同博士課程中退。専門はスポーツ社会学。資生堂研究員、日本女子体育大学専任講師を経て今春よりフリーランスに。同大学非常勤講師として教壇に立つかたわら、スポーツの伝え手たらんと鋭意修行中。テレビ朝日『ニュースステーション』リポーターをきっかけに、CNN『東京プライム』のキャスターを10年間つとめた。著書・訳書多数。ホームコースはカレドニアンGC。HD14。