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LIVからのオファーとPGAツアー残留の真相/松山英樹 2022年末インタビュー(2)

2022年は松山英樹にとってプロ転向から節目の10年目だった。年明けにアジア出身選手として最多の通算8勝目をマークし、故障にも苦しめられた1年を振り返った単独インタビュー。全3編の中編はサウジアラビア政府系資金を背景にした「LIVゴルフ」がテーマ。男子ゴルフをにぎわせる新リーグとの関係の経緯と、残留を決めたPGAツアーへの思いを吐露した。

オファーは1年前

プロゴルフ界の新勢力、LIVゴルフは6月の英国ロンドンでの開幕戦から、これまで8試合を開催した。元世界ランキング1位のダスティン・ジョンソンらがPGAツアーから移籍し、オイルマネーを原資にした巨額賞金のかかる新リーグはたちまちホットトピックスに。莫大な契約金を伴うオファーの候補として、「MATSUYAMA」の名前は、アジア市場の重要性も相まってリストの最上部にあったと言っていい。

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「去年(2021年10月)のラスベガスの試合の時、泊まっていたホテルにグレッグがわざわざ会いに来てくれた」。LIVのCEOを務めるグレッグ・ノーマン(オーストラリア)。新リーグからの接触は1年以上前のことだった。

幹部たちから直接話を聞き、新リーグのコンセプトを聞いた。「うーん、なんだか変な(不思議な)感じがしたというか…。本当にやるのか、PGAツアーとはどういう関係にあるのかというのが、はっきりしなかった。両方あるならば(選手が互いの団体を行き来できるなら)LIVはLIVで面白そうだし、もちろんお金の面でメリットがあるのも分かった」

LIV招待は出場48人が予選落ちのない3日間54ホール競技を戦い、個人戦と団体戦を並行して実施。各組4人の12チームは近い将来、各チームのキャプテンの意向によってメンバー編成が変わるという。オファーは松山をそのキャプテンの1人に据えるものだったようだ。

「確かに面白そうだなと感じた。良い意味でも、悪い意味でも自分が変われるチャンスかなと。僕は(集団の)先頭を切ってやっていくのが苦手。それを変えるチャンスもあると思った。3日間が良いかどうかはともかく、団体戦があるのが面白そうだと。(対抗戦の)プレジデンツカップなんかとは違って、自分が選手を選んだり、あるいは別の選手に自分が選ばれたりするのも面白そうな感じはした」

率直に興味は湧いた。ただ、実際にはすぐに新天地に気持ちがなびくことはなかったという。

「(話を聞いた直後は)本当にやるのかな…と。いろんな選手やメディアからの情報があったから、様子を見ていようと思った。(LIVに)興味はあるけれど、僕はPGAツアーでやりたい。最初、LIVは3月に開幕すると聞いていた。でもそれが近づいても(信ぴょう性の高い)情報がなくて。選手が流れるという確実なものもなかったから、話自体が流れるのかなと思った」

「移籍決定」の報道も

2月には移籍のうわさが取りざたされたダスティン・ジョンソンブライソン・デシャンボーらが相次いでPGAツアーへの忠誠を誓うコメントを発表。ところが彼らは6月以降、フィル・ミケルソンの背中を追うようにLIVに参加した

「当時の感想? 『ふーん』という感じ。(契約金の)金額もそうだけど、DJ(ジョンソン)なんかはメジャーを2つ勝ったし、世界ランク1位にも長くいた。(PGAツアーで)やり切った感もあるのかな、新しいフォーマットで自分の力を試したいと思ったのかな、と考えている」

6月の「全米オープン」、7月の「全英オープン」と今年のメジャーは新リーグの話題に事欠かなかった。

「(選手からの)勧誘みたいなものはない。もちろん、話はしますよ。全英の時だったかな。パトリック・リード、ブライソン(デシャンボー)がコースにいて、もちろんその話になった。『どう?』と聞いてみると、『めちゃくちゃいいよ』と返ってくる。とはいえ、LIVに行った選手はそう言うしかないだろうなとも思った」

PGAツアーはLIV移籍選手に出場停止処分を通達し、トップ選手の職場は分断された。両ツアー(リーグ)の選手、関係者はコースの外でもSNSなどで激しい舌戦を繰り広げた。

「自分たちの場所を信じてやっているから(こその発言)じゃないかと思うけれど、うん…。グレッグは分からないが、フィルなんかはPGAツアーで長くプレーしてきて、そんなに文句があるのかなあとも感じた。これまで(LIV発足前)も、あれくらいのクラスだったら(ツアーに対して)発言してきたのかな」

巨額の契約金や賞金によって、ゴルフとの向き合い方が変わるという声もあるが、松山は「自分は、それはないと思っている」と話す。「ゴルフが好きだから。うまくいかなければストレスがたまるのは同じ」

驚くべきはその頃、一部の海外メディアで「マツヤマのLIV移籍が決まった」と報じられたことだった。だが実際には、PGAツアー残留を決めたのも同時期だった。

「(決断は)うーん、全英オープンの時くらいですかね。『期限があるので移籍するなら早く決めてほしい』と(LIVから)ずっと言われていた。でも、まだ30(歳)だし、35より上だったら、もうちょっと考えて、行ったかもしれないけれど、まだそういうのはいいかなって」

PGAツアー残留の決め手

わずかでも揺れ動いた気持ちを、PGAツアーにつなぎ止めた要因は何だったのか。

「やっぱりPGAツアーにはロリー(・マキロイ/北アイルランド)がいるし、ジョーダン(・スピース)も、ジャスティン(・トーマス)もいる。皆、決して調子がいつも良いわけじゃないけれど、やっぱりPGAツアーには(世界ランク1位の)ロリーがいるという指標がある。DJやブルックス(・ケプカ)も1位になったけれど、ロリーがいるだけでツアーは違う」

輝かしいプレーでツアーを長らくけん引してきたマキロイ。松山よりも3歳年上だが、スランプを何度も乗り越え、10月には2年ぶりに世界1位に返り咲いた。LIVとの争いを通じて、発言への注目度、カリスマ性は増すばかりで“ネクスト・タイガー”にふさわしい存在感がある。

「それにPGAツアーにはタイガー・ウッズが残っている。タイガーのコメントには共感した。『賞金が保障されている試合で、汗水を垂らして練習する価値があるのか』という言葉には、確かにそうだなって。僕はただ(稼ぐためではなく)、ゴルフが本当に好きでやっているから、そういう気持ちはなくならないだろうけど、確かに(出場資格等が)ギリギリでプレーしている選手たちのことを考えると、違いはあるかもしれない、と」

出口の見えない両団体の争い。LIVの高待遇や競技方式を受け、PGAツアーは夏場に“対抗策”を講じた。ビッグトーナメントの賞金額のアップに加え、最低賃金を保障し、メンバーの新陳代謝を促すべく、フルシードの枠、プレーオフシリーズ進出枠をポイントランク上位125位から70位までに減らした。ただ、松山は新施策への疑問も口にする。

「LIVに対抗しているんだろうなと思うし、(PGAツアーに残った選手にとっても)LIVがあって良かったのかなと正直、思う。LIVが飛行機代や宿泊のホテル代、試合にかかる経費を全部出してくれるのは、確かに良いよな…と思うし。今年のプレジデンツカップの前は(フォーティネット選手権の会場から)PGAツアーのチャーター機が出なかった。今まではそう考えたこともなかったけれど、こういう状況になったから『プレジデンツカップはPGAツアーの試合なのにな…』と感じたりもした」(※フォーティネット選手権からの連戦は、米国西部のカリフォルニア州から東部のノースカロライナ州まで長距離移動を強いられた)

「シードが70人になったが、そこはわざわざ変える必要がないんじゃないかなと。どう見てもPGAツアーは成り立っていて、これだけ多くの固定ファンがいるのだから」

“対抗策”に疑問も

松山は昨季、継続中の選手として最長となる9年連続で最終戦「ツアー選手権」への進出を決めた。21年「マスターズ」優勝者としても出場権は当面の間、安泰だが「70」の数字に焦りを募らせる。

「それはもちろん違う。55人も減る。衝撃的に減った。ここで70人に入ることは大変なこと。自分だって、不調なシーズンだったら70位から落ちていた可能性も十分あった。2018年は(レギュラーシーズン最終戦)ウィンダム選手権に70位以下(※ポイントランキング88位)で入って、そこからプレーオフで巻き返して最終戦に行った。だから、余計にそう思う」

また、成績とは別の人気を図る指標「プレーヤ・インパクト・プログラム(PIP)」のボーナスが支給される上位20人の「トッププレーヤー」にはメジャー、招待試合を含め20試合の出場義務が課された(※1試合の欠場を許可している)。

「それも批判の的になると思う。賞金額を上げるから必ず出場しなさい、というのはLIVとやっていることが一緒じゃないかと…。LIVは来年、選手に14試合に全部出ろと言っていて、(PGAツアーも)同じことをやっているように見える。(指定大会への20試合の出場は)結構、キツイと思う。僕は日本や欧州の試合には(定期的に)出ていないが、スケジュールを組むときにある程度、目星をつけて出場を決めてきた。そこには日本で過ごしたい時間のこともある」

PGAツアーとLIV。男子ゴルフ界の“分断”。行く先の景色はまだ見えない。

「共存はしてほしいけれど、多分しないんだろうな…と今は思っている。ただ、例え話を誰かにされた。アメリカンフットボールのNFLは昔、別の団体(AFL)と合併したが、その前に両方の団体同士が戦ったのがスーパーボウルの始まりだった。いずれ、PGAツアー代表の6人から10人、LIVの6人から10人がぶつかるような試合ができるようになったら面白い」

(聞き手・構成/桂川洋一)

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