【WORLD】マキロイの山頂到達とタイガー/ザ・ホンダクラシックレビュー
Golf World(2012年3月20日号)
ゴルフ界は、南フロリダで誕生した新しいスターを軸にして、大きく揺れ動き始めた。これが運命の手によるものではないとしても、おそらく2つの赤い“巨人”の衝突になるだろう。彼らの引力が互いに引っ張り合い、マスターズ1ヶ月前の宇宙(世界)を作り上げている。
「今年のゴルフシーズンは、より刺激的なものになるだろう」とPGAナショナルでのどよめきだらけの空気を吸った後、グレーム・マクドウェルはそう口にした。
ロリー・マキロイが「ザ・ホンダ・クラシック」で優勝し世界ランクの頂上に上り詰めた。The Red King(とロリーがゲール語を翻訳した)が、マキロイより年若くしてNo.1の座についたことのある唯一の男、タイガー・ウッズが日曜日のウェアとして選んでいるThe Red Shirtを撃破したのだ。しかし、本当の意味で撃破したいえるのは、マキロイがタイガーと同じくらいトップに君臨したときの話。あと622週間、待たなければならない。
22歳のマキロイは、ルーク・ドナルドから王座を奪ったが、そこに上り詰めたときウッズは21歳だった。そしてこの大会で、現全米オープン王者から(復活優勝を)最後に阻まれた。しかしながら、最近フロリダ州オーランドからジュピターに引っ越したウッズは、新しい隣人たちとともに、日曜日のファイナルラウンドの邪魔をしたPGAナショナルに吹き荒れた強風のスコールの中で、素晴らしいプレーを見せる。雲がなくなり太陽が現れる頃、ウッズは観客たちを大興奮させるのに十分な8アンダー「62」を叩き出したのだ。
ウッズは、首位に9打差で最終ラウンドに突入すると、ジャック・ニクラスが改造したチャンピオンコースの18番パー5で、8フィートのイーグルパット(これは、4つのバーディに加えて2つ目のイーグル)を沈めた。その時、トップを走っていたマキロイにわずか1打差に迫っていた。このとんでもなく強烈なカムバック。この男が、ツアー71勝しているにもかかわらず、ここ29ヶ月間、優勝から遠ざかっているように見えただろうか?
マキロイはその復活を阻んだ男だ。北アイルランド出身の若者は、12番ボギーの後、13番で8.5フィートのバーディパットを入れ、15番、17番の2つのパー3では(ニクラスの愛称、ゴールデンベアから)ベアトラップと呼ばれる有名なバンカーからいずれもサンドセーブするなど5連続パー。18番を2パットに収め(優勝を決め)ると、マキロイは拳を突き上げ、父ゲーリーと抱擁を交わした。1週間前の「WGCアクセンチュアマッチプレー」決勝でハンター・メイハンに敗れ(世界ランク)王座に就くのが遅れたことなど、これで帳消しになった。
「(世界ランク)No.1になり世界一のベストプレーヤーになる。そして、そう呼ばれることが、いつだって僕の夢だった。でもこんなに早くそうなれるとは思っていなかった」とマキロイ。最終日を「69」で回り通算12アンダー268で、ウッズ、そして最終ホールでバーディを奪ったトム・ギリスに2打差をつけたのだった。
そして、「今日はタフな1日だった。特にタイガーのチャージを見てはね」とも付け加えた。「パーで回れば、(優勝には)多分十分だろうと思っていた。首位に立っていてこのコンディションで1アンダーなら素晴らしいだろうと思っていたんだ。それができたよ」。
昨年のマスターズで(最終日に)自滅したことが広く知られており、そのわずか2ヵ月後に、コングレッショナルCCで行われた第111回全米オープンで、その悪夢を打ち砕いたマキロイは、プロ転向後、5勝しているが、そのうち3勝がアメリカでのものだ。そして、2011年全米プロで手首を痛めた後で、トップ5入りしなかったのはたったの1回しかない。
もっと印象的なのは、彼はベストの状態ではなかったのに(世界ランクNo.1の)証書を手に入れたということだ。日曜日のラウンドは、パーセーブを続けて生き残った。マキロイが1パットで切り抜けた8つのホールのうち5つは、6フィート以上からのものだったのだ。
「いつも自分がベストだと考えている。僕を倒すのは大変だよ」と、史上16人目で、ここ16ヶ月間で5人目のNo.1となり、ウッズ、ドナルド、マルティン・カイマー、そしてこの日、「63」を出してリーダーボードに登ってきたリー・ウエストウッドといった面々の仲間入りを果たしたマキロイは口にする。「でも、時々こうも思うんだ。もし、ベストのゴルフじゃなくても、またチャレンジできるじゃないか、とね。そのことが大きな自信につながっている」。
もし、マキロイが自信を身につけたら、ウッズは(注目される身として)毎週、かつてのスイングコーチ、ハンク・ヘイニーが書いた本に関する質問に答えることがなくなるだろう。(ウッズは現在、ヘイニーの暴露本“The Big Miss”に関することを、ほとんど冷たくあしらうような態度でかわしている。結果的に彼の売り上げに“協力”して、ゴルフに関するコメントをしているのだが)。
コーチのショーン・フォーリーとの19ヶ月に及ぶオーバーホールの末に、ウッズは、プロ入り以降、初めてプレーした(PGAナショナルの)チャンピオンコースで、素晴らしいショットを放った。とはいっても、3日間は何度も何度もスコアメイクのチャンスを逃していた。しかし日曜日はすべてのピースがあるべきところにはまった。それが、大会の盛り上がりにつながったのだ。
「ゴルフコースのあらゆるところでどよめきが起きていた」とマクドウェル。「ロリーが2打のリードでスタートし、タイガーが62を出して、ウエストウッドが63。世界中のどのツアーででも優勝するのは大変なことだけど、このツアーでは特にそうだ」。
ブラント・ジョーブと共にタイガーとプレーしたアーニー・エルスは「たった一人の人間がそういう状況をもたらしたんだ。それは素晴らしいものだった。人々は彼が戻ってくることを願っていた。だから、今日、タイガーがもたらしたものは素晴らしい。僕が知っている、昔のままのタイガーが戻ってきたように見えた。ミスショットをすることもなく悪いスイングをすることもなかった。彼を見ているのは楽しかったし、彼にすべてが戻ってきたのはうれしい」と言った。タイガーは最終日の自己ベストを出しただけではなかった。通算270は、最後に優勝した2009年BMW選手権以来の最少スコアだったのだ。
「ショットミスはほとんどなかった。(復活に)近づいているようですごくいい感じだ」と、第2ラウンドはここ2シーズンと同じようなのではないかと2日前に評されたウッズは話している。「進んでは失い、失っては進んでいる。その繰り返しだ」。
だが、このまま、タイガーはこれを維持できるのだろうか。日曜日のラウンドは神がかっていただけなのだろうか?
去年の秋、タイガーのバッグを担いでいたジョー・ラカバはこう証言する。「パー3の5番で彼が打ったのは、少しフックの6番アイアン。その後、6番のドライバーは池の右端を越えて行った。アレを見て僕は『ワォ!タイガーは(優勝する)準備万端だ』と思った。タイガーは自分の打ちたい球を打っていた。少しドローにしたり、少しカットにしたり、すべて思ったとおりにね」。
今年のゴルフシーズンは、健康体に戻った36歳のウッズの(復活への)見込みとともに始まった。マキロイに代表されるニュージェネレーションに、過去の実績抜きに対等になった。マイアミで行われたWGCキャデラック選手権でも、今季、いいスタートを切っているもう一人の主役フィル・ミケルソンとともにオーガスタナショナルGCに備えている。
「エキサイティングな時間だよ」とマキロイ。「いつも言っているように、僕は10歳のときからタイガー・ウッズやフィル・ミケルソンをやっつけたいと思っていたんだ。それが現実のものとなる状況がきたら最高だね」。
米国ゴルフダイジェスト社提携
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