米国男子ツアー

【WORLD】「世界ランク50位」を争う アメリカに訪れる危機

2012/02/02 15:47

Golf World(2012年1月16日号)GW bunker texted by Brett Avery

南アフリカのグーセンは昨年11月まで、実に628週も世界ランキングトップ50以内にとどまった。(Andrew Redington/Getty Images)

もし複数の企業に投資していたとして、それらの資産価値が1998~2008年の間に64%も落ちたとしよう。ちなみに言っておくが、これはドットコムクラッシュで衰退した企業の話ではなく、およそ10年に渡りwindowsやorphansに配当金を支払えていた優良企業についてだ。そして2009年から現在に至るまで、それら企業が損失を3分の1程度にまで回復させたとしたら、持ち株を売却するだろうか?もしくは傍観者として流れを見ていた人間は、逆に投資するだろうか?こうした傾向こそ、2012年のゴルフ界にとって最大の疑問とされていることだ。

この投資の例は、プロトーナメントの頂点における男子アメリカ選手たちに当たる。

仮にツアー公式サイトのリアルタイムスコアをストックティカーに見立てるとすれば、世界ランキングは世界指数となる。数週間前に発表された昨年のランキングを参考にすると、トップ50にアメリカ人選手が18人、トップ10に4人が含まれる。大したことではないように聞こえるかもしれないが、2008年のランキングでトップ50に12名、その内トップ10に2名(タイガー・ウッズフィル・ミケルソン)しか含まれていなかった当時と比べれば、格段に状況は改善している。

ところが1998年と比較するとどうだろう。当時、アメリカ人選手はトップ50に多く含まれ、33人(トップ10に5人)という結果だった。そして98年の方が、状況はより重要な意味合いを持っていたと言える。というのも、98年11月にマスターズがアメリカのメジャー大会としては初となる、世界ランキングトップ50の選手を招待(全英オープンでは1987年から実施。当時はトップ40の選手に招待した)すると発表したからだ。

オーガスタ・ナショナルのフーティー・ジョンソン新会長は、「招待選手の出場枠増加は結果として上手く機能している」と以前記し、PGAツアー優勝者に出場権が与えられるシステムは2000年までに消滅するだろうとも予期していた。ジョンソン会長は、「現行のシステムであれば、世界中のベストプレーヤー達が毎年マスターズに出場出来る」とも主張している。

この変化は世界ゴルフ選手権(WGC)が始まった1999年からで、全米ゴルフ協会がトップ50の選手を全米オープンへ招待した2001年以降は、アメリカ人選手の出場が減少し始めた(以前はトップ20までを招待出場枠としていた)。そしてこのバブルは2006年に弾け、遂にはトップ50以内に含まれるアメリカ人選手の数は、20人から13人に激減。

専門家からは、このトップ50エグゼンプションをアメリカが嫌々ながらも採用したことで、外国人選手にとって大きなチャンスとなり、そしてアメリカ国内の大会で猛威を振るうことになったという意見が出ている。1999年のマスターズから数えて20あるメジャーで14大会をアメリカ人が制したが、直近の20大会ではアメリカ人選手が優勝したのは僅かに7大会のみだ。

このシステムの恩恵に預かった外国人選手の代表例は、レティーフ・グーセンだろう。南アフリカ出身のグーセンは、1992年にサンシャインツアーで3勝を挙げ、翌1993年に欧州ツアーに挑戦。96、97年に優勝すると、世界ランク100位以内に入り、その翌年にはキャリア初となる、4大メジャー全てに出場した。4大会とも残念ながら予選通過とはならなかったが、99年には欧州で1勝、そして5大会で2位フィニッシュし、ランキングを33位まで上昇させた。トップ50に入ったことで、2000年にはWGCの3大会に出場。アメリカで本格的に活動を始め、2001年には全米オープンで優勝を飾った。

2003年からグーセンは欧州ツアーの大会にはたまに出場する程度で、PGAツアーで獲得するランキングポイントを優先。トップ50に与えられるエグゼンプションの恩恵を、昨年11月に53位で終えるまでの間、628週に渡り保持し続けた。

1995年以降、28カ国からトップ50に入った選手が生まれている。その内毎年ランクインしているのは6カ国のみで、オーストラリア、スウェーデン、イギリス、日本、南アフリカ、アメリカとなっている。未だにアメリカ人プレーヤーがメジャー大会出場選手の大半を占めてはいるものの、全米オープン予選、PGAチャンピオンシップクラブプロ、そして優勝争いを展開している選手達は、海外出身者が多い。

更に、グーセンのような海外の実力者達がトップ50に長期間ランクインするという現象が起こっている。つまり、WGCの4大会に出場するアメリカ人選手の数も減ったということ。ある程度のポイントが保証されたWGCの大会に出場出来ないのであれば、1年を通してモンスター級の活躍をする、もしくはメジャー大会で優勝でもしなければ、トップ50には入れないということだ。

ウェブ・シンプソンの例を挙げてみることにしよう。2011年開始の時点で213位だったシンプソンは、年間2勝、そして2位フィニッシュを3度記録し、合計298ポイントを獲得。このポイントを上回ったのはルーク・ドナルド(531)とロリー・マキロイ(360)のみ。シンプソンと上記2名の違いは、ボーナスポイントが与えられるマスターズとWGCの3大会に出場出来なかったこと。これら4大会でのポイントは、ドナルドが年間に記録したポイントの15%にもあたる。そして、これらの事実は、ドナルドがシンプソンよりも33万5000ドルも多く賞金を稼いだことに繋がり、結果PGAツアー賞金王となったのだ。

一度でもトップ50にランクインすれば、これだけの機会が与えられることになるため、プレーヤーは是が非でも順位を保持しようと努める。2010年のトップ50に入った選手の内14名は昨年未勝利に終わったが、それでもトップ50にとどまっている。10人が海外出身の選手だが、例えばスウェーデンのピーター・ハンソンの場合、29大会に出場し7度の予選落ち、1度の棄権、そして9度トップ10フィニッシュ(全米オープンでの7位を含む)を果たした。素晴らしい成績とは言えないが、ランキングでは2010年の40位から42位に落ちただけ。

こうした背景を踏まえ、全米ゴルフ協会は、2012年から全米オープン出場枠を大幅に変更すると発表。出場枠をトップ60位にまで広げ、大会開催3週間前と1週間前の時点でのランキングを対象とするようにした。これは、全米ゴルフ協会が賞金ランキングではなく世界ランキングを重視するようになったことの表れと言える。

マスターズがトップ50以内の選手を招待選手として以降、世界中のゴルフファンは自分達の国を代表する選手に肩入れをするという傾向が一層強くなった。これによりアメリカ人選手の出場枠が減る可能性も取り沙汰されているため、マスターズはPGAツアー優勝者へ出場資格を再び与えるようになったのかもしれない。最近ではトップ50からアメリカ人選手の名前が徐々に少なくなっているが、2016年からゴルフがオリンピックの正式種目となるため、今後はアフリカ、アジア、南アメリカからも選手が台頭してくるとみられている。

“その日”は、全米トップ50の内アメリカ出身者が10名以下になった時に来るのかもしれない。そしてこれこそ、冒頭の質問を再び考えるきっかけになるのではないだろうか。
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