<超大物ルーキー、松山英樹の素顔>
「素顔」とか、偉そうに銘打ったが実は、鮮烈デビューから2試合が過ぎたいまも、正直まだつかめてはいない。そのたぐいまれなる才能は、もう十分に理解しているが、では彼がどういう青年なのか。
そこまでは、まだよく分からない。今はゴルフに専念したいと、テレビの特番などの取材はすべて、お断りしているそうだから、どことなくベールに包まれたまま。
ちまたでとかく言われているのが、石川遼との比較だ。同い年のライバルとはゴルフも、性格も対照的だと言われる。史上最年少の15歳でツアー初優勝を飾ったときから、人々の注目を集め、その年齢にそぐわないほどの優れた話術で人々を魅了し、ゴルフ界のみならず、日本中の話題をさらった石川。
確かに、松山はそれとは正反対に見える。
どちらかというと木訥な風貌は、普段はほとんど口を真一文字に結んでいる印象がある。口数もあまり多いほうではない。いや、むしろ、記者会見ではあえて余計なことは、一切言わないように、かたくなに心がけているようにも見える。
「遼みたいになりたくない。そういう気持ちがあるんじゃないか」と、察するのはいまも松山が在籍する東北福祉大の阿部靖彦・ゴルフ部監督だ。どんな質問にも爽やかに受け答えをし、そつのない立ち居振る舞いで石川は、日本中の人気者になったがその代わりに、私生活を失った。
一時期は、テレビで石川の顔を見ない日はなく、その活躍ぶりに感心する一方で、同情の声を上げる選手は少なくなかった。「うかつに遊びにも行けない。外に出ればすぐに人に囲まれ、プライベートもない。俺なら耐えられない」と、先輩プロたちは言ったものだ。
デビュー戦の開幕戦から、常に大勢の報道陣を引き連れて歩く松山がこのままいけば、石川と同じ状況に陥る可能性もある。それもスター選手の宿命ではあるのだが、阿部監督も言ったが「コースを出れば、普通の21歳」。ぶっきらぼうに、報道陣の質問に答えるのはその「普通」の部分を守りたいと思う精一杯のガードかもしれない。
それでも、その硬い鎧をちょっぴり解いたかな、と感じた一瞬があった。
朝のクラブハウスのレストランでのこと。ビュッフェのコーナーで、トーストが焼けるのを待ちながら、松山がおもむろに焼き海苔を取った。「え? パンに焼き海苔・・・?!」と、思わず突っ込んだら「まさか。パンに海苔はないです。ご飯はもう向こうに取っています」と言ってニッコリと笑った顔は、ほれぼれとするほど無邪気な21歳のそれだった。
と、それにつられてついスルーしそうになったが、あとで思えば「トーストに・・・ご飯も!?」。どっちも食べるんだ。食べ盛りなんだ。伸び盛りなんだ。日に日にたくましくなっていく体も、本人の口からは絶対に明かされないが、日々積み重ねている血のにじむようなトレーニングと、旺盛な食欲のたまものなんだ。
それこそがこのたびつるやオープンでの、99年のJGTO発足後の記録としては、デビューから最速2戦目のツアー初優勝となった。
優勝スピーチは、さすがにいつもよりは、“饒舌”だったけれど、やっぱり石川ほどではなかった。口べただから、なかなか本心も語らないかもしれないけれど、光輝くダイヤモンドの原石を、暖かい目で見守っていこう。時折見せる、21歳の素顔。きらきらと、輝くあの笑顔がこの先、曇ることのないように。大切に育てていかなければいけない。