Gマックが魅せてくれた醍醐味 WGCマッチプレーの行方は?
サボテンが立ち並ぶ砂漠地帯、アリゾナ州ツーソンの北にあるダブマウンテンGCを会場としてきた「WGCアクセンチュアマッチプレー選手権」は、米国PGAツアーの年間スケジュールで唯一のマッチプレー大会。世界ランキング上位64人の選手が出場権を手にするエリートフィールドは、世界でも随一と言える。
各国ツアーのシステムや日程変更により、年々複雑化していくスケジュールの影響もあり、今年はタイガー・ウッズ、アダム・スコット、フィル・ミケルソンが欠場という寂しいニュースが波紋を呼んだ。だが、ふたを開けてみれば、連日繰り広げられた各マッチは例年同様、熱気にあふれていた。
5日間にわたる大会の前半戦の主役の1人は、グレーム・マクドウェル(北アイルランド)と言って良かった。もちろん松山英樹を負かした相手という“贔屓目”がある。しかし、連日の逆転勝ちはマッチプレー本来の魅力を存分に見せつけてくれるものだった。
初戦のゲーリー・ウッドランド戦では3ダウンで迎えた16番から3連続アップで延長戦に持ち込み、1ホール目でバーディを決めて逆転勝ち。松山と当たった2回戦は、最後の4ホールで3アップを奪って土俵際から試合をひっくり返した。そして3回戦は一昨年大会で優勝、昨年大会は準優勝の強豪ハンター・メイハンを相手、にまたも終盤2ホールの2連続アップで追いつき、結局21ホールにわたる激闘を制した。
そのメイハン戦では20ホール目で6メートルのパーパット、そして最終ホールでは5メートル弱のバーディパットを決めた。神憑り的な終焉に、笑顔なくガッツポーズを作った後、思わず目頭を押さえた姿が、集中力を極限まで高めて勝負を捨てないマクドウェルの激闘を物語っていた。普段の紳士的な態度には、米国人ファンからも人気がある。しかし試合、とりわけマッチプレーとなれば、より感情はあらわになる。ミスショットを打てば、クラブをキャディバッグに叩きつけ、吠えた。
「イギリス、アイルランドでは子供の頃にたくさんマッチプレーをして育つんだ」と自信を持って言うマクドウェル。彼の昨季の米ツアーにおけるシーズンスタッツを見ると、フェアウェイキープ率こそ15位(68.51%)だったが、ドライビングディスタンスでは161位(277.5ヤード)、パーオン率は144位(62.7%)、ストロークス・ゲインド・パッティングでも71位(0.135)。どちらかというと平面的で特筆すべき部門がないにも関わらず、好成績を挙げているため、余計に“勝負どころ”での強さが際立っている。
最終日だけでなく、毎日が勝敗と隣り合わせ。それを分ける紙一重の1打に懸ける計算や執念も、マッチプレーというフォーマット(競技形式)だからこそ見ることができる。
ところでそのマクドウェルが敗れたのは、フランスの新星ビクトル・デュビッソン。準々決勝で今度は逆転負けを食らった。「彼には脱帽だ。ライダーカップでチームメイトになれることを期待している。欧州の新しい若手として素晴らしい仕事をするだろう」。
その言葉は正しかった。準決勝でアーニー・エルスを破り、決勝戦ではジェイソン・デイと23ホールを戦った。フラン人初のPGAツアーチャンピオンにはあと1歩届かなかったが、デイも「ビク(ビクトル)の粘りは信じられなかった。ジョーダン・スピースと若い頃のタイガー・ウッズ以外に、あんな若手は見たことがない」と大きな目を一層丸くした。バチバチと火花を散らした後は、笑顔で互いを認め合い、プレーに敬意を払う。それもマッチプレーだからこその魅力である。
スター選手が連日コースにいる保証がなく、安定的な集客や視聴率も見込めないマッチプレーのトーナメントは、世界的なトレンドとして年々縮小傾向にある。そしてこの大会も、そんなネガティブな話題から来季リニューアルされる可能性が高い。
今大会で初の4強入りを果たしたリッキー・ファウラーは言った。
「団体戦を除けば、僕らはここでしかマッチプレーを戦えない。この試合は小さかった頃に仲間たちとランチやキャンディをなんかを賭けてプレーしていた時のことを思い出させてくれるんだ。今は賞金を争っているけれどね。世界で最高の選手たちとプレーできるんだ。無くなってほしくないよ」
最終日、PGAツアーのトップ、ティム・フィンチェム氏は新たな大会スポンサーの決定について結論を先送りした。しかし既に次回の会場は米チャンピオンズツアーの年間最終戦や、2009年の「プレジデンツカップ」等が行われたサンフランシスコのTPCハーディングパークなど、数コースが候補地として有力視されている。
大会期間中、テレビ中継局のCBSではCMに入る直前、マッチプレー独特のルールを解説するVTRを流していた。決勝戦はギャラリーがロープ内に入ることを認められ、優勝を争う2人の真後ろをついて歩き、欧州の騎士道に由来する1vs.1の真剣勝負を楽しんだ。普段とは違う空気が流れる、マッチプレー。次回大会にも期待したい。(アリゾナ州マラナ/桂川洋一)