2013年 マスターズ

アダムを讃える潔しカブレラ そしてルールトラブルの因縁

2013/04/15 11:33
激闘のプレーオフを経て、穏やかな表情で勝者を称えたA.カブレラ (Mike Ehrmann/Getty Images)

悔しさをかみ殺すより早く、彼は勝者のもとへ歩み寄った。雨の降りしきるオーガスタナショナルGCの暮れ時。2ホールにわたるプレーオフに敗れ、2009年以来の「マスターズ」制覇を逃したアンヘル・カブレラ(アルゼンチン)は、初のメジャータイトルを手にしたアダム・スコット(オーストラリア)に最大級の賛辞を送ってグリーンを降りた。

74ホール目の10番グリーン。願いを込めた6メートルのパットは右へとそれ、スコットの一打がカップに消えた。全身で喜びを表す32歳とハグを交わすカブレラ。「私にとっても彼の勝利は嬉しいことだ。彼が(メジャー覇者に)値することは分かっていたし、ここでついに勝ったんだから」とラウンド後は潔いコメントに終始した。

1打差を追った正規の最終18番で、残り163ヤードからの第2打を7番アイアンでピンそば1メートルにつけ、まさに土壇場でプレーオフに持ち込んだ。しかしあと一歩のところで、2着目のグリーンジャケットが届かなかった。それでも、普段通り近づきがたい表情を浮かべながらも、「彼の人生はこれからすぐに大きく変わるだろう。ずっとメジャータイトルを探し求めていたからね。そしてついにやった」と温かいメッセージ。

さらに長尺パターを使用した新たなメジャー王者が誕生したことについて「彼の勝利もアンカリング規制の問題に今後影響するか」のという質問が及ぶと「(アンカリングに)アドバンテージなんかない。有利だってことが分かっているとしたら、なんで全員が使わないんだ?」と、禁止への動きに疑問を投げかけた。

ところで、スコットがグレッグ・ノーマンをオーストラリアの英雄と位置付けるように、カブレラの母国アルゼンチンの偉大なプロといえば、1967年「全英オープン」を制し同国出身選手として初めてメジャーを制したロベルト・デ・ビセントがいる。

ビセントの逸話として有名なのが、1968年の「マスターズ」の出来事だ。最終日、終盤17番でバーディを奪った彼は、ボブ・ゴールビーと72ホールを終えて首位タイで並び、プレーオフを戦うことになった。しかしこの最終ラウンドの同伴競技者、トミー・アーロンはビセントの17番のスコア「3」を「4」と誤記。ビセントは確認を怠ってスコアカードを提出してしまい、過大申告の処分を受けることに。1打差の2位に終わるという大きなミスを犯した。その後、球聖ボビー・ジョーンズが「ルールはルール。しかし今年の勝者は2人いた」と話したことが、いまも語り継がれている。

今大会は開幕前の公式会見でパッティングスタイルに関するアンカリング問題の話題が上がり、2日目には14歳のグァン・ティンラン(中国)のスロープレーに1罰打が科されたことに疑問の声も上がった。そして、極めつけがタイガー・ウッズへのペナルティと、ルールに関する騒動だった。

これは何かの因縁だろうか。

カブレラが敗れた今日、2013年4月14日は、ビセントの90歳の誕生日。そしてその、忘れられないマスターズからちょうど45年が経過した日だった。(ジョージア州オーガスタ/桂川洋一)

■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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