アジアンツアー賞金王が苦手なもの
「プロゴルファー日本一」を決める今季の国内メジャー初戦。80回目の開催を迎えた記念大会で、まだ日本のファンには馴染みの無い名前が、開幕初日のリーダーズボードの上位に掲げられた。
国内男子ツアーの「日本プロゴルフ選手権大会 日清カップヌードル杯」が10日(木)、栃木県の烏山城カントリークラブで開幕。その初日は日中の雷雲接近のため、42選手がホールアウトできなかったが、フィリピン出身のジュビック・パグンサンが「66」をマーク。2年ぶりの大会制覇を狙う谷口徹に1打差の6アンダー暫定2位で滑り出した。
パグンサンは出だしの1番(パー5)でいきなりイーグルを奪取。残り251ydの第2打をユーティリティで3メートルにつけ、これを決めた。スタートの興奮は冷めぬまま、続く2番(パー3)でも7番アイアンでのティショットをピンに絡めてバーディ。中盤以降も1パットでのパーも5度拾うなど粘り強さも見せ、ノーボギーでフィニッシュした。
168センチと小柄な体格、ラウンド中も笑みを絶やさない姿が印象的な男は、昨年度のアジアンツアー賞金王だ。2012年は未勝利ながら、欧州ツアーとの共催試合「バークレイズ シンガポールオープン」で単独2位となり、66万6660ドルを獲得。平塚哲二を抑えて同国出身選手で初の賞金王を戴冠した。
ところでこのアジアの“シンデレラボーイ”、今シーズンは欧州ツアーに挑戦する手もあったが、日本ツアーを主戦場に選んだ(アジアンツアー賞金王は、翌年の日本ツアーメンバーとなる権利を有している)。その理由のひとつが「飛行機が苦手なんです」というもの。今年3月には米フロリダ州ドラールで行われた「WGCキャデラック選手権」にも出場し、世界トップクラスを相手にした戦いで35位。しかし「初日は良かったんだけれど…(第1ラウンドは69で5位タイ)。でもやっぱり飛行機の長時間移動がキツイ」と苦笑いするのだった。
父のユニアートは、母国のローカル大会やアジアで戦うプロゴルファーだった。その背中を見て、ジュビック少年がゴルフを始めたのは13歳。以後、東南アジアで数々のタイトルを獲得した。しかし、プロ転向したのは26歳。「遅いでしょう。フィリピンではプロになるため、スポンサーを募るのが大変で、長い間アマチュアだったんです」と、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。
それゆえに今季の目標は「日本のツアーカード(シード権)をキープすること」と、少しばかり控えめにも思える。だが、それに向けた準備も着々。マニラの自宅近くには日本食レストランがあり、家族(夫人と娘)とともに訪れていたため、食事面の不安も少ない。既に日本国内のマネジメント会社に所属してサポートを受けており、こちらの生活にもすぐに順応できそう。心配なのは「寒いのには慣れないとね」と言ったところだろうか。
ラウンドを終えると「明日(5月11日)は僕の34歳の誕生日なんだ」と照れ笑い。“前祝い”は上々だ。一気に日本でのタイトル…といった、壮大な思いはまだない様子だが、この聞きなれない名前を覚えておいても損はナイ?(栃木県那須烏山市/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw