“第2の石川遼”から“第2の中島啓太”を輩出へ 指導者のキーワードは「メタ認知能力」
テレビに映るタイガー・ウッズの活躍を見てゴルフに興味を持ったらしい。“らしい”というのは、そもそも中島啓太はゴルフを始めたきっかけを覚えていなかったから。ただひとつ、本人が鮮明に記憶しているのは「6歳の誕生日に子供用のクラブが欲しい」と両親に伝え、買ってもらったこと。そこからゴルフの世界へとのめり込んでいった21歳が、9月の「パナソニックオープン」で史上5人目のアマチュア優勝を成し遂げた。
中島を小学3年の9歳前後から見守ってきた吉岡徹治氏は「感無量です」と感慨を深める。杉並学院高1年の石川遼がツアー最年少優勝を遂げた当時、同校のゴルフ部監督を務めた吉岡氏は“第2の石川”を輩出するべく、ジュニア育成に力を入れてきた。高校生や小学生とあらゆる年齢が集まったジュニアキャンプに参加した中島は「当時預かった子の中では一番年下。末っ子だった」と回想する。
毎回20人ぐらい集まったキャンプでは、まず朝イチで9ホールの選考会を行い、選ばれた4人で準決勝、さらに残った2人で決勝戦とマッチプレーで競わせる。勝ち残れば長くラウンドすることができ、その4人に入れなければ練習場に向かうことになる。「それが楽しかったのか、毎週来ていた。レッスン会というよりはみんなで集まって遊ぶ感じ」
ジュニア育成に取り組み始めて約15年。メンバー制にせず、誰もが出入りできる場にすることで、数百人の子供たちを見てきた吉岡氏はひとつのキーワードとして「メタ認知」という言葉を挙げる。近年、ビジネススキルとしても注目されるそのワードは「自らの認知(知覚、感覚、記憶、思考)を客観的にとらえること」とし、中島はその能力が優れていたという。
「問題解決能力が高いというか、一回言ったことは忘れない。例えばセルフプレーだから自分が打った跡は自分で直しなさいと目土をさせるけど、これって簡単にできるようでできない。スコアとかスイングに集中するとすぐに忘れちゃう子もいる。でも中島はカートにバッグを積んでいても必ずカートから持っていって(ディボットを)埋める。これって、客観的に見ながらプレーしているんだな、と思う」
幼少期には自宅でひとり仮想トーナメントをしていたという秘話もある。「『中島啓太くん、18番ホールを…』と自分で解説しながらシミュレーションをして優勝する―。というのを小学生の時にやっていたそう。(中島の)お母さんが『ひとりで遊んでいるのよ、あの子。変わっているよね』って(笑)。ほうきを振り回しながら遊んでいたみたい」
吉岡氏は「この『メタ認知能力』を高められるようになれば、“第2の中島”、“第3の中島”みたい、になっていくんじゃないかな」と期待する。「技術の向上と同時に、メンタルスポーツ。体もしっかり鍛えて技術力もあげるけど、それでも上手くなる人と、ならない人がいる。(中島のほかに上手とされる選手に)そういう能力があるのかは今後、見ていこうと思う」と展望する。
そして、最後に「僕は本当に生徒に恵まれています。指導者として幸せ」としみじみと言った。指導するうえで偉業を残す選手に巡り合うのもなかなかあることではない。涙を流すことも多い中島だからこそ、時にはその部分が「メンタルの弱さかな」と思うこともあったそうだが、「でもこうやって勝ってみるとね、どんどん強くなるんじゃないかなって思うよね」。次なるステップを踏もうとする教え子の成長に想像を膨らませた。(編集部・石井操)
■ 石井操(いしいみさお) プロフィール
1994年東京都生まれで、三姉妹の末っ子。2018年に大学を卒業し、GDOに入社した。大学でゴルフを本格的に始め、人さまに迷惑をかけないレベル。ただ、ボールではなくティを打つなどセンスは皆無。お酒は好きだが、飲み始めると食が進まないという不器用さがある。