優勝スピーチの“予定原稿”も アジアアマ制覇・中島啓太の段取り力がすごい
◇アジアパシフィックアマチュアゴルフ選手権 最終日(6日)◇ドバイクリークゴルフ&ヨットクラブ(UAE)◇7203yd(パー71)
中島啓太はポケットからウォーターシャワーでびしょ濡れになった1枚の紙を取り出して「優勝スピーチを書いてきたけど、何も言えなかったです」と苦笑いした。優勝前夜、世界アマチュアランキング1位をたたえるマコーマックメダル授与式のスピーチは入念な準備をして堂々と行った。あしたのスピーチも準備している?と聞いたときは「何のスピーチですか?ああ…」という感じだったが、最終日を前にして“予定稿”の準備もしっかりと終えていた。
今年の締めくくりとなる「アジアアマ」をきっちり射止めた中島。リン・ユーシン(中国)はフロリダ大、サム・チョイ(韓国)はニューメキシコ大、コー・タイチ(香港)はノートルダム大といった具合に、ライバルは米国の大学に通うトップアマたち。「すごい選手に追われるのが本当に怖かったけど、自分に負けずにアジア大会を思い出しながらプレーできた」と信念を貫いて、プレーオフの末に勝利をつかんだ。
ここに至るまでのストーリーには長いものから短いものまで、様々な伏線が絡み合っている。優勝トロフィーのプレゼンテーションを前にして涙をこぼしたのは「家族や練習場のスタッフの方、僕がゴルフを始める前からサポートしてくれた人を思い出したから」。最終日にくじけそうになったときにも、金谷拓実が日本から応援してくれている記事を思い出し「こんなところで終わっちゃいけない」と気持ちを奮い立たせた。
今年は「どうしても勝ちたかった」という「日本アマ」を初制覇し、マコーマックメダルも獲得。国内男子ツアー「パナソニックオープン」では、勇気を持って1Wを振り続けて史上5人目のアマチュア優勝を成し遂げた。「そうやって一つひとつ自分のテーマをクリアしていけたから、自分の方に運が来たのかな」
緊張して、起床予定より2時間15分早い午前5時30分に目が覚めた最終日の朝。中島は「何か勉強しようと思った」とYouTubeを検索して、巨人の坂本勇人選手が2000本安打を達成するまでのドキュメンタリーを発見した。「ジャイアンツファンだし、ほかのアスリートがどうやって緊張に向き合っているか見たくて、ちょうど良かった」という動画から得た学びは「自分に正直に、緊張を受け止めて前向きになる」ということ。スタート直前のわずかな時間も成長へと費やされた。
来年はアマチュアとしてもう1年、最高峰の舞台である「マスターズ」「全米オープン」「全英オープン」に挑んでいく。「やっぱり目標というか課題は常にあるので、それをクリアしていって、結果で自分に自信が持てればいいかなって思います。1試合、1試合準備をして、ベストパフォーマンスを出すことがプロになる前の準備だと思う」と中島は言う。松山英樹、金谷拓実という先輩プロを追いかけて、いつかその偉大な背中も追い越したい。(アラブ首長国連邦ドバイ/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka