そして、たった一人が残った・・・ タイガー・ウッズの全米オープン
「タイガー・ウッズの全米オープン」が幕を開けた。まるで主役の登場にあわせて端役たちが舞台の袖に隠れるかのように、アンダーパーの世界から選手たちが姿を消していった。デンマークのトーマス・ビヨーン、スペインのヒネメス、米国のトリプレット、そしてこれもスペインのオラサバル、フィジーのビジェイ・シン。中年パワーの逆襲を期待された円熟のハル・サットン、ニック・ファルド、あるいは若さのウェストウッド。すべての選手たちがタイガーを追うどころか、少しずつ少しずつオーバーの世界へ退いていく・・・。
ただ一人、アーニー・エルスがスコアを伸ばした。必死に追いすがろうとする姿勢を見せた。しかし、それでも68。トータル2オーバーまで回復するのが限界だった。
まるで1997年、ぶっ千切りで走り抜けたマスターズの再現だ。しかしあのときのウッズはひたすらパワーと若さで栄光をひっつかんだ。わずか3年後の今年、ウッズには大ベテランの風格とテクニック、そして精神力が備わっているかのように見える。
2番ホールで9アンダーまで伸ばした直後、3番でバンカー脇の深いラフにつかまってトラブル。ほとんどカラ振りに近いミスショットでトリプルボギーとしたウッズの表情は、まるでちょっとしたボギーを叩いてしまったよとでも言いたげに平静だった。いままでだったら一気に挽回をはかって目の色が変わるはずの4番では、更に焦りをあおるようなバーディ逃し。しかし表情はまったく変わらない。6番ではまたもトラブルに見舞われてショット不可能なバンカーのヘリ。しかしこのピンチから信じられないようなリカバリーで寄せてなんなくバーディ・・。総計で5つのバーディを奪い、1トリプル、2ボギーを帳消しにして71。
3年前のマスターズは若きタイガーの華やかなデビューだった。去年の全米プロはもがき苦しんでの勝利だった。そして今年、過酷なペビルビーチの全米オープンを制するのは、新人でも単なるスタープレーヤーでもない、文字通りの帝王というべきだろう。マスターズ、全米プロ、そして今年の全米オープン。次の課題はもちろんセントアンドリュースでの全英オープン。そして来年以降は、かつての帝王ニクラスが果たそうとして果たせなかった夢、同年グランドスラムが待っている。この果てしなく壮大な野望に向かって突き進むことができる男は、もうタイガー・ウッズしかいない。
旧帝王が万雷のスタンディングオベーションに見送られてペブルビーチを去った今年、新たな後継者が誕生する。もちろんすべてが決定するのは明日。最終日の18番を待たなければならない。