2023年 全英オープン

5年ぶり海外メジャー 蝉川泰果の収穫と松山英樹のすごさ

2023/07/25 16:50
蝉川泰果(右)のキャディとして、5年ぶりのメジャーとなった進藤大典氏

海外メジャーでバッグを担ぐのは2018年「全米オープン」以来、5年ぶりでした。チャレンジ精神をかき立てるようなハードセッティング、ギャラリーの数と熱気。その中で味わうのは楽しさや興奮といったポジティブなものばかりではありません。忍耐の時間は長く、ふとした瞬間に反省や後悔が湧き上がってくることもあります。ひとつの試合で、これだけいろいろなことを感じさせてくれる舞台は、メジャーをおいて他にないでしょう。

今回の全英オープン開催コースは2006、14年大会に続くロイヤルリバプールで、少しだけティイングエリアの位置をずらすことでバンカーを絶妙なポジションに配置する“味付け”が施されていました。新設された17番(パー3)は別として、大きな変化を取り入れるのではなく、コースが持っている本来の難しさをしっかり強調する試みといってもいいかもしれません。

ティショットでバンカーを避ければ距離が残り、砲台グリーンに向けてタフなショットが要求されます。フライヤーの計算が厄介なラフが悩ましく、ところどころ脱出困難なブッシュも。何より3番や18番(パー5)の右サイドのOBの近さといったら…。あの“気持ち悪さ”は、世界トップクラスですら恐怖を感じるシチュエーションだったはずです。

2006年に当地で勝ったタイガー・ウッズは4日間で一度しかドライバーを握らず、対照的に14年のロリー・マキロイ(北アイルランド)はドライバーを多用して優勝。そして、今回は飛距離のアドバンテージがないブライアン・ハーマンがクラレットジャグを手にしました。多種多様な攻め方、勝ち方があり、本当に考えつくされた素晴らしいコースだと実感しますね。

僕がキャディを務めた蝉川泰果選手にとっては、初めてとなる本場のリンクスコース。時間を追うごとに地面の硬さがみるみる変わって、クッションを使おうとしたときのボールの跳ね方にも大きく影響します。全英を戦う上では欠かせない風への対応も同様。ひと口にアゲンストの風といっても、横風と正面からでは距離の落ち方やボールの曲がり方は大きく異なります。クラブセッティングの事前対策を含め、話を聞いて頭で分かっていたとしても、実際にそれを試合でやるのは全く別物の難しさがあるのです。

苦しんだ中でも初日の経験を2日目に生かし、風に対して様々なクラブを使って縦距離を合わせようとする技術と感性。対応力とポテンシャルの高さを感じました。今回のスコアカードには表れなくても、ここで戦うことでしか得られない確かな収穫があったと思います。

いつまでも変わらぬナイス・ガイのアダム・スコット(右)

開幕前日はアダム・スコット(オーストラリア)が一緒にコースを回ってくれました。松山英樹選手と初めて全英に出た2013年のミュアフィールドでも、練習ラウンドでとても親切にしてもらった記憶があります。事前のテキストメッセージで快諾してもらい、ラウンド中も蝉川選手のアプローチの質問に丁寧に時間をかけて対応。10年経っても変わらないナイスガイぶりに感動を覚えました。

松山英樹のすごさを改めて感じた

最後に松山選手。今回同じ舞台で戦って再認識したことがあります。この世界最高峰の場において、“ラッキーパンチ”みたいなものは限りなく少ないということ。“当たり前”のように予選をクリアし、上位争いをうかがうポジションに安定して身を置ける選手が、どれほどの努力を積み重ねてきたのか。改めて尊敬の念を感じました。プレーオフシリーズまで気の抜けない戦いが続きます。一人のファンとして、日本からエールを送りたいと思います。(解説・進藤大典)

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