<佐渡充高の選手名鑑 88>リー・ウエストウッド
■ メジャー優勝へ布石を打ちたいトップランカーたちのバトル
今週は「WGCブリヂストンインビテーショナル」というビッグトーナメント、そして翌週には今季最後のメジャー「全米プロ選手権」が続くという特別な日程になっている。「WGCブリヂストン-」の会場ファイアーストンCCという難コースでどのようなプレーができ、どのような順位で終わるのか、その結果はメジャーでの活躍を占う上で、大いに参考になる。さらに他の選手の調子を見定め、自身の優勝には何が足りないのかを確認、補うことのできるラストチャンスとなるのだ。選手にとってもファンにとっても充実の2連戦がいよいよ開幕する。
■ 誰よりもメジャータイトルがほしい!リー・ウェストウッド
今週、最も気合が入っている選手は、イングランドのリー・ウェストウッド(40)だろう。世界で38勝(米国2勝)を誇り、欧州ツアーでは2度の賞金王、2010年は22週に渡り、世界ランク1位に輝くなど数々の栄誉を手にしてきた。その活躍が高く評価され、大英帝国の勲章も受章するなど、ほとんどのタイトルを得てきたがメジャータイトルは未冠なのである。これまでメジャーに62回挑戦し、2位が2回、3位が6回と、何度も優勝のチャンスを逃してきた。7月の「全英オープン」では、地元の期待を一身に背負い最終日を首位で迎えたが、母国での悲願の優勝をフィル・ミケルソンに渡し、自身は3位タイでのフィニッシュとなった。40歳という年齢を考えると残された時間はそう長くはない。プロキャリア20年の、思いのすべてを注ぎ、タイトル獲得の夢が実現するのか注目だ。
■ 不死鳥
ウェストウッドはイングランド北部に生まれ、13歳からゴルフを始めた。瞬く間に上達し、15歳で「ジュニア選手権」で優勝。20歳でプロ転向を果たし、その3年後の1996年に、欧州ツアー「ボルボ スカンジナビアンマスターズ」で初優勝を飾った。その後も優勝を重ね、大躍進の若手として期待されたが、2002年から急激なスランプに陥った。翌2003年には、世界ランク246位まで下降。彼は年月をかけ、再起を誓い大改革に取り組んでいた。徹底的な肉体改造を目指しトレーニングを開始。加齢による身体の変化と、飲酒の影響で溜まった脂肪を半分にし、柔軟で屈強なニューボディに改造した。その結果、2009年には欧州ツアーの2度目の賞金王、最優秀選手賞に選ばれ、不死鳥のごとく復活を遂げ、現在に至っている。
■ メジャー制覇に向け家族の思いはひとつ
14年前に選手仲間であるアンドリュー・コルタートの妹・ローラと結婚した。彼女は美容師の資格を得てサロンを開業していたが、育児と夫のサポートのために閉店。昨年末には12歳の長男・サミュエル、9歳の長女・ポピーとともに一家はフロリダ州に転居した。メジャー優勝のためには、より多くの米ツアーでの経験が必要だと感じ、その決意を家族も理解し応援しようと同行を決めた。妻や子供たちも住み慣れた母国、友人と離れ、文化や習慣の違う国での新たなチャレンジがはじまった。2月の「AT&Tペブルビーチナショナルプロアマ」は転居してからの米ツアー初戦。その門出に、ゴルフに導いてくれた元数学教師の父・ジョンと、足の専門医である母・トリシアを招き、父子ペアで出場して楽しいひとときを過ごした。両親はイングランド在住で、リー一家とは離れてしまったが、skype やFaceTimeなどを活用し、孫たちとも毎日のように会話を楽しんでいるそうだ。
また昨年11月に、長年のキャディ、ビリー・フォスター、ショートゲームのコーチ、トニー・ジョンストンと別れ、米国転居を契機にすべてを変えて再スタートを果たした。5月からはタイガー・ウッズ、ジャスティン・ローズらのコーチで知られるショーン・フォーリーの門下となった。「全英オープン」前には、パットのコーチを1991年同大会覇者のイアン・ベーカー・フィンチに依頼した。強烈な決意で挑む、ウェストウッドの今季の米ツアー。そして今季最後のヤマ場を黄金の2週間にすることができるのか。