2014年 マスターズ

ご褒美を受けとったワトソンの2勝目

2014/04/15 16:47
激しいマッチレースを終えた2人。最終ホールで健闘をたたえ合った(Andrew Redington/Getty Images)

最後のパットをきっちりと決め、勝利を手にしたバッバ・ワトソン。日曜日(最終日)のプレーイングパートナーであったジョーダン・スピースと握手、そしてハグを交わした時には涙が溢れていた。そしてスピースに対し、彼がどれだけ優れているか、弱冠20歳なら、この先マスターズでいくらでも勝利を挙げるチャンスがあることをグリーン上で告げた。

マスターズ王者としてワトソンは、若きスターのスピースに多くの言葉をかけたが、敗れた直後だったスピースの心は傷つき、その痛みを乗り越えようということで、まだ頭がいっぱいになっていたに違いない。何らかの言葉を聞き入れることはできただろうか。

「分かるだろう? 僕があの時何を言ったって、彼を慰めることはできなかったんだよ」とワトソンは思いやった。

テキサス出身の若手スターが最年少優勝をかけて戦ったマスターズ。彼の未来はまばゆいばかりだが、その日曜日、それは一旦“保留”となった。今回のオーガスタナショナルで、ここまでの取り組みを称えられ、そのご褒美として優勝を勝ち取ったのはワトソンだった。
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機転の利く35歳レフティーのワトソンは、最終日の残り11ホールでスピースの追随を許さず、勝利を手にした。そして2年ぶりにこの「グリーン・ジャケット」に袖を通した。

スピースともう1人のルーキー、ヨナス・ブリクストに3打差をつけたワトソン。この差は2010年にフィル・ミケルソンが優勝した時以来の、最高記録でもあった。

最終日は非常にドラマが多く、バックナインではきわめて優れた才能を誇るワトソンが想定外のショットを連発し、「この先どうなるか?」と人々をドキドキさせた。だが…ワトソンが2度目のグリーン・ジャケットに袖を通すに違いない―試合が進むに連れ、観る者の不安は、確信へと変わっていった。

ワトソンの良き友人であり、5位タイに入ったリッキー・ファウラーは「あの場所は彼にお似合いだね」と述べた。

他の選手にとってのオーガスタナショナルと、ワトソンにとってのそれは違う――とファウラーは気づいたという。最終日の10番ホール、ファウラーはフェアウェイをとらえきれず、ワトソンが2年前にルイ・ウーストハイゼンと延長戦をした時と全く同じ松葉の上に立っていた。ワトソンは、松葉の敷き詰められたところから、木を避けてショットを放ち、優勝を手にした。あれはマスターズでも記憶に残るショットだった。

ファウラーはそこからウェッジで抜け出すのが精一杯だった。「彼は他の人が打てない場所でも、しっかりと打てる選手だよ。だから、ここでの優勝がよく似合うんだね」と続けた。

最終日は“いちかばちか”のショットなど必要ではなかったが、それでもワトソンは惜しまず見せつけた。

13番ホール、510ヤードのパー5。ここでワトソンはドライバーショットで少しカットしすぎて、左の林に打ち込んでしまった。だが、次に起きたこと、それは大きな歓声が聞こえ、ボールは木に当たって弾かれフェアウェイに戻った。それによりピンまで140ヤードとなり、56度のサンドウェッジでバーディを取れる位置へつけて、通算8アンダーに伸ばした。

「13番での彼のドライバーショットは一生忘れないね」とスピース。

15番ホール(530ヤード)の第2打も然り。ドライバーでミスショットをし、左の林の中へ。選択肢は、8番アイアンを使用してレイアップするか、6番アイアンを使用してグリーンサイドバンカーに打ち込み、少しでもピンへ近づけるか。キャディのテッド・スコットと相談したワトソンが選んだのはバンカーも視野に6番アイアンを使うことだった。

もちろん自信満々でやったことではない…。でもフラッグを狙いにいったのだ。

「僕がどういう選手か知ってるでしょ。」とワトソン。「ピンに少しでも近づけたかった。だからキャディには告げず、少しカットしたんだ」。

バーディこそ奪えなかったものの、彼のメッセージは伝わった。他の誰もできないやり方で試合を戦うワトソンには、誰も見えない“ルート”が見えていたのである。

「僕には想像できるはずのないことだった」とキャディーのスコットは説明した。「レイアップで刻むのも大差はなかったんだ。だけど彼はぜんぜん違うことを思っていたんだよ」

「あれは今週のベストショットと言っても過言ではない」とゴルフチャンネルのフランク・ノビロは述べた。「あんなショットがなぜ打てたか、今でも分からない。あんな選択肢はあり得ないと思っていたから」と続けた。

しかし、バッバにとっては不可能ではなかった。それこそが彼であり、彼のプレースタイルなのだ。恵まれた体格と限界のない想像力、そして類まれなる創造性。言うまでもないが、どこかで習ったようなことではない。

彼のキャディが「フリークショー(見世物)だった」と振り返るのも無理はない。グリーンジャケットまであと一歩という18番ホールのフェアウェイで、キャディのスコットは「君は、木星かどこかから来たでしょ? だって普通の人間にはあんなショットは打てないから」とワトソンに告げたのも当然だ。それが「バッバゴルフ」の世界だ。

しかしフリークショー(見世物)以外の部分では、彼の熱さも感じられる。2年前、初めてマスターズを制する直前、彼は息子のケレイブを養子に受け入れた。そしてグリーンジャケットに袖を通したとともに有名になり、苦しみも味わった。

ワトソンはその環境に慣れるまで丸1年かかった。2013年は勝利を挙げることができず、彼はゴルフと家族とのバランスを取ることに決め、妻のアンジーと練習スケジュールについて相談した。それが功を奏し2014年は、今回のメジャー優勝を含む2大会で勝利を挙げる滑り出しとなっている。

「そんなに良い状態ではないからね、練習し続けなくちゃ」とワトソン。

ゴルフに近道はない。オーガスタナショナルにももちろん近道はない。物事を習得するのは、大抵時間がかかるものだ。

スピースは今週初めからパー以上でラウンドし、そのこtで2打リードで迎えた最終日までは自信もつけていただろう。しかしワトソンが8番、9番でバーディを奪ったのに対し、彼はボギーを連発した。

フラストレーションと戦いながらもバックナインでは必死にしがみついた。これが若くしてメジャー優勝を目指す者の意地だ。心配はいらない。スピースはすぐに勝利を挙げるだろう。今回の敗戦は若きスターにとって大きな一歩になった。この経験から学びを得て、更に大きな選手へと成長していくのだ。

「今は心が痛いよ」とスピース。「今たった一つ考えられることは、来年再びマスターズの優勝争いに戻って来たいということだけだよ」と続けた。

ワトソンが来年この場所に戻ってくる時には、あのグリーンジャケットを着てチャンピオンズ・ディナーでどのような料理を出すのかを決める。前回は、グリルドチキン、グリーンビーンズ、マッシュポテト、そしてマカロニ&チーズという代表的な南部料理だった。

彼がメニューを変更するかって? それはお楽しみだ。バッバは予知できない男だから、ゆっくり座って、フリークショーを楽しむに限るのだ。

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