今週の舞台、ドラール改修を手がけたジル・ハンス氏の一問一答
ジル・ハンス氏(Gil Hanse)は今、最も旬なゴルフコースの設計者だ。ドナルド・トランプ氏に抜擢され、トランプナショナルドラールの“ブルーモンスター”の改修を手がけただけでなく、2016年にブラジル・リオデジャネイロで開催されるオリンピック大会のゴルフコースも設計した腕利きだ。ハンス氏に、トランプナショナルドラールを改良した際のポイントを聞いた。
Q、ドナルド・トランプ氏との仕事はどうでしたか?
A、彼は素晴らしい人物でした。ドナルドは常にベストを目指す人物として評判が高いですが、その根底にはゴルフへの愛情があります。彼はゴルフに夢中なんです。我々はオーナーであるドナルドの、ゴルフへの愛情を十分に理解した上で今回の改修に当たりました。彼は競技に対して正しいアプローチを望んでいます。それはこのドラールのコースを、出来うる限りベストの状態にすることです。最初に言った、「素晴らしいゴルフコースを造ってくれないか」というひと言に、全てが集約されています。
Q、トランプ氏はどの程度、改修に関わったのですか?
A、非常に多くに関わってくれました。彼はこの規模の劇場型コースへの改修に、大きな理解と感謝を示してくれました。実際、9番と18番を改良して、円形の劇場型にセッティングしようと提案したのは彼だったのです。
Q、今回の仕事は、ダメージの回復、または改修、あるいはリデザイン? どのように捉えていますか?
A、スタートは、ダメージの回復でした。ここは歴史あるコースですし、ディック・ウィルソンという著名な設計家が手がけたコースでしたから。我々は彼のデザインを尊重し、共感したかったので、まずは彼の設計意図を理解しようと勉強しました。しかし、近代のモダンなゴルフコースに近づけるには、ダメージの回復だけでは不十分ということが分かりました。プロジェクトが進む中で、ドナルドが言いました。「いいかい、今回の仕事は一大事業だ。もし大幅な改修が必要と感じたのなら、ためらわず進めてくれ」とね。彼のひと言がきっかけで、(今回の仕事は)ダメージの回復から、改修に変更となりました。手を加える範囲が広がったことは、まるで“ドミノ倒し”のようで、ほとんど全てのホールを改修することとなりました。なので、全く新しいゴルフコースに生まれ変わったと言っても良いかもしれませんね。
Q、新しくなったトランプナショナルドラールを、あなた自身はどう評価していますか?
A、最終的には、発注主であるクライアントを満足させたいものです。ドナルドは、今回の改修工事に満足してくれました。私たちには嬉しいことです。このコースは、一年のうちの51週間は、リゾートゴルフ場として機能し、各地から訪れるゲストに愉快に過ごしてもらわなければなりません。しかしPGAツアーが開催される1週間だけは、別の話です。この1週間で評価が決まるのです。ここで選手権を競う世界のトップ選手たちが、今回の評価を下してくれるでしょう。
Q、トップ選手たちがあれこれ意見を言ってくることに、ナーバスになっていますか?
A、もちろん、それは間違いないです。でもそれは、前向きなナーバスさです。かつてTPCボストンの改修に携わった時にも、似たような経験をしました。自分たちがデザインしたコースで、一流選手たちがプレーするのを観ることが、こんなにも楽しいとは知りませんでした。ナーバスになりますし、希望に満ちた感情にもなる。最終的には、全選手が公平にプレーできて、戦略的な面白さがなければなりません。私たちは今回、それらすべてを満たせるような仕事を成し遂げたと思っています。
Q、あなたは今回、ほとんど全ホールを改修しましたが、18番ホールは辛うじて触れた程度でした。どうしてですか?
A、(最終18番は)PGAツアー選手にとって、 最も困難でチャレンジングでなければなりません。18番ホールはそれらの条件を備えているので、18番と呼ばれているのです。以前の18番を保持することは、我々には重要なことでした。状態も悪くなかったので、手を加える必要もなかったのです。
Q、改修工事に着手する前、このコースに関する選手たちの意見を、情報として取り入れましたか?
A、昨年の大会中、我々はワークショップを開催する機会がありました。何人かの選手はこのコースデザインに非常に興味を持っていましたが、全く興味を示さない選手もいました。フィル・ミケルソン、ジェフ・オギルビー、ジャスティン・ローズらとは、実際に会話をしました。彼らは、スコアに影響するからではなく、コースデザインに興味を示した選手です。
Q、改修された新コースは、ファンにどのようなインパクトを与えますか?
A、レポートされることはほとんどありませんでしたが、グリーン周りに起伏をつけることで、ギャラリーには経験を通して改修を感じてもらえると思います。ドラールは、常にフラットなコースでした。我々は、ギャラリーが体感できる点においても改修を施しました。以前のコースでは、次にどのようなプレーが起きたかを知るために、つま先立ちするのは選手だけでしたが、これからはギャラリーたちも似たようなことをするでしょう。
ハンス氏の改修によって、最も大きく様変わりしたトランプナショナルドラールの4ホールは次の通りだ。
1番
選手たちはすぐさま、何かが違うことに気づくでしょう。1番ホールは80ヤードほど距離を伸ばしました。フェアウェイバンカーをティグラウンド方向に移動させ、ティショットの難度を高めました。その日のピン位置によって、セカンドショットもかなりタフな選択を強いられるでしょう。直接ピンを狙える場合、多くの選手は攻めてくるでしょうが、狙えないケースでは、センターラインのバンカーが、左か、右か、キャリーかの選択を迫ってきます。選手たちは非常に迷いながらのショットとなるでしょう。非常に面白いカップ位置を用意しました。
9番
左手にあったウォーターハザードを右手に移動させ、18番の円形の劇場型ホールの池と一体化させました。ティグラウンドは大きく右手に位置を変えました。グリーン横に置かれたやや長めのバンカーは、視覚的なトリックをもたらしますが、実際のバンカーは20ヤードほどの長さです。ここでも面白いカップ位置を用意しています。右手奥から攻めてくるのはどの選手でしょうか。
15番
距離のないパー3ホールは、コース全体のバランスを考える上で重要なホールです。グリーンは以前のコースと変わっていません。池を拡張してコース内にせり出させました。このホールは終盤の山場で、非常にドラマチックなホールになると思います。3面分もありそうなグリーンはとても大きく、バラエティに飛んだカップ位置を用意できます。
16番
用具の進歩が、このホールの攻め方を変えました。ティからグリーンは見えませんが、選手たちは豪快にドライバーを打ち込んでくるでしょう。グリーンに向かってボールを飛ばしたい選手は、ウォーターハザードに注意が必要です。フェアウェイでレイアップする選手は、ウェッジショットに正確さが求められます。カップ位置によって微妙なアンジュレーションをつけたので、アプローチは正確さが問われるでしょう。