2009年 マスターズ

今田竜二インタビュー/なるべく、普通の1試合として臨みたい。多分、無理だけど(笑)

2009/03/16 09:00

鮮やかな緑の芝、咲き乱れるアゼリアの花

今田竜二がマスターズと初めて出会ったのは、自身がゴルフクラブを握り始めた7~8歳の頃と重なる。朝早く起きて、今田少年は食い入るようにブラウン管の中のまるでおとぎの国のような光景に見入っていた。「子供の時から、マスターズの週だけは早起きして見ていました。芝の色とかアゼリアの花とかが印象的で、華やかで、純粋に凄いなって」。いつか、そこに立ちたい。少年の心に一つの種子が植えられた。

14歳で単身渡米。「僕の気持ちの中で、マスターズという試合がアメリカに導いてくれました。見ることによってアメリカに憧れたし、もしマスターズが無ければアメリカに来ていなかったかも知れない。今の僕が無いかも知れないと考えると、意味の深い大会ですね」。

コーチの勧めでジョージア大に進学した今田は、入学後、同大学の選手が年に一度オーガスタをラウンド出来る機会があること知って飛び上がった。夢のオーガスタ!「最初に行ったときは、プレーに集中できず、キョロキョロキョロキョロしていましたね」。まるでゴルフどころではないが、コースから受けた印象もまた特別だった。「他のコースとは全く違うアンジュレーションがあります。世界中でラウンドしているけど、あそこは見た目のラインとキャディの言うラインが結構違うんです。なんか、自分がド素人になった気分にさせられるコースです」。

4年目のブレークスルー、5年目の初体験

PGAフル参戦4年目となる08年は、今田にとってブレークスルーイヤーとなった。5月に開催された「AT&Tクラシック」でプレーオフの末、日本人選手として史上3人目のPGAツアー優勝を達成。年末には中国で行われたワールドカップに谷口徹と組んで出場し、日本を3位に導いた。

しかし、劇的な進歩や特別な変化というものがあった訳ではない。「積み重ねです」と今田は当然のように言う。「コツコツと辛抱してれば、いい事あるとずっと自分に言い聞かせて、それがようやく実ったって感じです」。まだまだ小さな実がなっただけ。そんなに騒ぐことじゃないですよ。ちらりとこちらに向けた今田の視線が、そう物語っていた。

11月末にワールドカップを戦った今田は、年が明けた1月にはすぐに開幕戦の「メルセデスベンツ選手権」に出場した。この試合は、前年度の優勝者のみ参加が許されるエリートフィールド。「もう少し休みたかったっていうのもあるけど、それはそれで悪くない」。今田は充実した表情を見せる。「自分の思っていたスタートより良くはない。70点くらい」という今年の前半戦だが、いつもより早い始動がシーズン最初のメジャーに好影響を与える可能性は否定出来ない。

少年 VS プロアスリート

09年、ついに憧れのマスターズに初出場する。「勝つ、勝たないでなく、あの場に行ってみたかった」という敬慕の心情は察するに余りあるが、今田は努めて冷静を保とうとする。「(去年)優勝した時は、これでマスターズに出られるっていう気持ちは結構ありました。でも今は、なるべく普通の1試合という気持ちで臨みたい。気持ちの高ぶりとか、気負いがあると上手くいかないから。無理だとは思うけど(笑)」。

一番最近では去年の12月にラウンドした。マスターズの前週に入って、さらに6ラウンドはしたいという今田だが、既にオーガスタ攻略のイメージは固まりつつある。「次のショット、次のショットを考えて攻めて行かないといけない。ピンがここだから左サイドに外していくとか、傾斜とかを上手く使って攻めていかないと。距離も伸びたし、ロングなんかも僕の距離じゃ届かなくなってきて、ザックやイメルマンみたいに3打目勝負になってくる。ショート、ミドルはいやらしいホールが多いので、いつボギー、ダボ、それ以上のスコアになってもおかしくない。あまり攻めすぎても上手くいかないコースなので、バランスよく攻略したい」。オーガスタのすべてのホールが頭に入り、分析にも淀みがない。

「サッカーで言ったらワールドカップ、野球だったらワールドシリーズに値する試合。子供の時から憧れてきた試合だし、出るからには良い成績を残したい」。そんな、少年の純粋な心をプロアスリートの精神が制御する。「だからといって、それだけ考えてもしょうがない。良くても悪くても、気持ちよく一週間やりたいと思う」。あの子供心に憧れた舞台がまもなく開幕する。初めてその舞台に立つ時、そこにいるのは果たして大人の今田か、それとも少年のままの今田だろうか?

2009年 マスターズ