2012年 マスターズ

タイガー・ウッズ 復活の軌跡

2012/03/27 19:07

<プロローグ>

08年の「全米オープン」を制したT.ウッズ。この華々しい地位からの失墜など、誰が予想しただろうか(Doug Pensinger /Getty Images)

メジャー通算14勝、米国PGAツアーを含め、世界各地で実に80勝以上。他に追随を許さない圧倒的な力と技を誇示してきたタイガー・ウッズが募ってきた世界中からの敬意は、2009年末、自らのスキャンダルが明るみになったことで消え失せた。騒動以降、ツアーでの勝利からは約2年以上見放され、出場自粛や度重なる故障を経て、完全復活をアピールできていないままだった。

しかし王者は静かに、そして確かに前進を続けていた。12年3月、その時はついにやってきた。ベイヒルクラブ&ロッジで行われた「アーノルド・パーマーインビテーショナル」で待ちに待った優勝。「Hello World」から始まり、ゴルフ界を震撼させ続けてきたスーパースターは、苦悩し、もがき、そしてもう一度立ち上がった。タイガーにとって7年ぶり5度目の優勝を目指すマスターズを前に、その“沈黙の時間”を見つめなおす。

<栄光>

2008年の「全米オープン」を制し“トリプルグランドスラム”でメジャー通算14勝目を飾ったタイガー・ウッズ。4日目、最終18番で見せたガッツポーズはゴルフ史に残る名場面のひとつとなった。ところが以前から痛めていた左ひざは悲鳴を上げていた。手術、リハビリのため、結局その後のシーズンを棒に振る長期離脱。しかし翌2009年3月「アーノルド・パーマーインビテーショナル」で復活優勝を飾ると、その年はメジャーでの優勝こそなかったが米国ツアーで「ザ・メモリアル」、「AT&Tナショナル」、「ビュイックオープン」、「WGCブリヂストンインビテーショナル」、「BMW選手権」と勝利を重ね、王朝の再興を疑うものはいなかった。

<事件>

09年12月。タイガーの事故に関する会見に詰めかけた大勢のメディアたち。そして、事故の真相が明らかになっていった(Joe Raedle /Getty Images)

同年11月、欧州ツアーの「JBWereマスターズ」優勝でシーズンを締めくくり、シーズンオフに入った矢先のことだった。それから2週間後の11月27日、午前2時頃、フロリダ州アイルワースの自宅前の消火栓、立ち木に、自らが運転していた自動車が激突し病院に搬送された。事故当初は、タイガーを救うためエリン夫人がゴルフクラブで車のガラスを叩き割ったとされたが、直後にこれまでの不倫疑惑が浮上。複数の女性との交際疑惑が明るみになり、その後、愛人たちによる“暴露合戦”も展開される事態となった。人格者であり、深い家族愛を持つスーパースターとして知られた男の大スキャンダルは全米、世界を巻き込み、12月2日には公式サイトで「家族を失望させ、自分の罪を後悔している」と謝罪コメントを発表。さらに11日には無期限の試合出場自粛を明らかにした。

<沈黙>

女性問題の発覚後、様々なスキャンダル報道が飛び交う中、タイガー本人はホームページ上でコメントを発表したのみで、約3か月の間、その姿、肉声が公になることはなかった。しかし一方で周囲からの視線、環境は激変していく。加熱する報道合戦だけでなく、アクセンチュア、タグ・ホイヤー、ジレット、AT&Tといった長年サポートを受けてきた自身のスポンサー企業が相次いで契約を解除、または契約更新しないことを決定。さまざまなメディアによる人気ランキングで全米トップの地位を保持してきたが、その評価は二分されることとなった。

<謝罪>≫
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