梅ちゃんリポート(5)究極のアプローチ/全米女子オープン
鈴木愛キャディ/梅原敦
上がりがすべてでした。昨日も上がりでやられているだけに、2日続けてやられることだけは許されなかった。だけど、17番パー3でのアプローチのあのライは、僕の中ではもはや絶体絶命だとも思えましたね。
グリーンを少し外れたところで、ピンまでは約10yd。もしライが良かったとしても、左から右への強い傾斜を考えると、1mちょっとは左に打ち出して距離感を合わせていかないといけない、非常に繊細なタッチが必要な場所だったんです。
その状況で、鈴木選手のライはほぼボールが隠れてしまうような深いラフでしかも逆目。同じような状況を男子ツアーでも何度も見てきたけど、その誰もが寄せられないことがほとんどでした。
鈴木選手はそこまで完璧なゴルフを展開してきただけに、あそこでのボギーは決定的なダメージとなっていたかもしれません。ただね、このアメリカのベント芝では必ずその同じような状況が来るであろうことを想定し、鈴木選手は南コーチとともに毎日のようにアプローチに多くの時間を費やしていたんです。
今日、鈴木選手が魅せたあの17番でのアプローチは、僕のキャディ人生の中でも一生忘れないものとなるでしょう。
あのライとピンまでの傾斜を考えたら、鈴木選手が出したあの究極に柔らかいタッチでしか絶対に寄らないんです。それだけ芸術的なアプローチだった。
トータルイーブンパーの12位タイ。世界最高峰の舞台、全米女子オープンでトップ10に入るということは、世界のトップ10に入ることを意味します。明日の最終日に向けて、鈴木選手に足りないものは何もありません。
「SUZUKI」はイチローだけじゃない、「AI」は宮里だけじゃない。
明日、「AI SUZUKI」は世界に挑戦します。
■ 梅原敦(うめはら・あつし)
1974年4月5日生まれ。41歳。京都府出身で学生時代は野球少年としてならし、専門学校卒業後に兵庫県内のゴルフ場に就職する。98年から2013年末まで、15年間にわたり藤田寛之の専属キャディとして活躍し、14年からはフリーに転身。男女ツアーを通じ、さまざまな選手のキャディとして選手をサポートし続けている。愛称は「梅ちゃん」。今年の全米女子オープンでは、鈴木愛選手のバッグを担ぐ。