<チャレンジからツアー出場権を獲得した鈴木亨がオフにいそしむ主夫業>
まだ朝日も昇らない早朝に起床して鈴木亨のオフの1日は始まる。まずは長男・貴之くん(高校2年)の朝食の支度だ。「朝食といってもトーストを焼いたり、ヨーグルトを出したり、たまに卵を焼くぐらいで、手を掛けたご飯じゃありませんよ」と言うが、子供への愛情が溢れる様子が窺える。
鈴木の家は季美の森ゴルフ倶楽部(千葉県大網白里市)に隣接する瀟洒な住宅街にある。最寄りの駅は自宅から車で10分ちょっとの大網駅だ。貴之くんが、そこから電車に乗り木更津駅から出ているスクールバスに間に合うためには早起きが不可欠なのだ。駅まで送るのは、もちろん鈴木の役目だ。家を出る前に衣類を洗濯機に放り込む。帰って来るころには洗い上がっているという寸法だ。
駅から帰って洗濯物を干すと、とりあえず朝の仕事は終わって、プロゴルファー本来の仕事である練習を季美の森で開始する。
「昼はいったん家に帰って、前の晩の残り物で昼食です」
と言うことは晩御飯も作っているということだ。
「隠し味をどうのとか、そんなことはできませんけど、鍋とか焼きそばとかカレーぐらいは作れるじゃないですか。本当に面倒になったときは、お弁当を買ってきたり、スーパーでお惣菜を買ったりもしますけどね」。
夜、長男の帰宅はゴルフ部の部活を終えてからだから結構夜遅くなることも珍しくない。そこから食事だ。こうして鈴木の1日の主夫業が終わる。
ご存知の方も多いと思うが、鈴木亨の妻は女子プロゴルファーの丸谷京子で、長女は人気アイドルの鈴木愛里さんだ。東京を拠点に全国を忙しく飛び回る長女の世話を妻が担当し、長男の世話は鈴木が担当するという形が長女のデビュー以来、鈴木家の基本スタイルになっているようだ。
昼食を済ませて、しばらく休憩をしてからトレーニングを開始。今季、シード復活を目指す鈴木にとって、午前の練習と午後のトレーニングは、自分を追い込むための貴重な時間だ。
鈴木は1992年に「後援競技ランキング上位選手」の資格、つまり裏シードを獲得した。その翌年に賞金シード入りを果たして以来、2010年までその地位を守って来た。2011年に賞金ランキング81位で賞金シードを失うと、2012年は「生涯獲得賞金ランキング25位」の資格でツアーを戦った。しかし、その年、ついに賞金シードに戻れず、ファイナルQTへ。
「6日間の戦いは過酷でした」と、その順位は52位とツアー出場は絶望的な位置になり、昨年はチャレンジトーナメントが主戦場になっていたのだ。
ほぼ20年もの間、ツアーの表舞台に立って来た男にとって、2部トーナメントでの戦いは戸惑うことばかりだったと言う。
「僕らが若いころは、先輩プロに頭を下げて挨拶に行ったものですけど、誰も寄って来ないし、若手からどんなふうに見られているんだろうか何て考えてしまいましたよ。でも、話してみると、若い人もけっこういいヤツなんですよね。プロゴルフ界のいろいろな面が見られたということで、この1年も決して無駄じゃなかったと思っています」と鈴木は振り返る。2013年のシーズンが終わって、チャレンジトーナメントでの鈴木のランキングは7位。つまり今季のリランキングが行われる前半戦までの出場権を得たのだ。
2009年の「マイナビABCチャンピオンシップ」でツアー8勝目を挙げたときに最終日に駆け付けて父の勇姿を目の当たりにした貴之くんは、身長184センチの恵まれた体に成長し、密かにプロゴルファーを目指しているらしい。
「悔しいですけど、僕より飛びますよ。当たれば300ヤード」と鈴木は目を細める。今は息子とゴルフの話ができるのが何より楽しいと言う。
「今年は自分を自分でどれだけ追い込めるかが課題です」と言う鈴木亨。また家族の前で勇姿を見せて欲しいものだ。