国内男子ツアー

<彼らが織りなす光と影・・・選手とキャディの物語>

2012/07/23 08:59
今季、ルーキーの藤本佳則とコンビを組む前村直昭氏、キャディの支えは大きいようだ

先ほどの李京勲(イキョンフン)のツアー初優勝は、プロキャディのスコット・ビントさんと初タッグを組むなりの快挙達成だったが、これは偶然だけではないだろう。プロゴルファーとキャディの関係性は、技術の向上と同じくらいに慎重に吟味すべき事項である。

最終的には選手自身が判断を下すのはもちろんなのだが、それでもコースで唯一の味方として担うキャディの役割は大きい。歩測や距離計算、番手選び。風向きやグリーンの読みなど“技術”に長けているのは最低条件としても、ピンチに直面したときの危機管理能力、また何よりも選手との相性が、大きな鍵を握っている。

李のほかにも藤本佳則がルーキー年の初Vを飾って話題になったが、それにしたって藤本が、元々持つポテンシャルの高さは当然のことながら、デビュー戦からバッグを担ぐ前村直昭(まえむらなおあき)さんの力量によるところも大きいはずだ。初出場だった先週の全英オープンでは、ルーキーとしては史上初という決勝ラウンド進出までやってのけてしまった。

前村さんは、かつて伊澤利光を支えた経歴を持つ。以前、伊澤と同組で回った選手が話していたことだが、それによると「前村さんの仕事ぶりは、文句もあげようがないほどに完璧」ということであった。伊澤に対する細やかな心配りはもちろん、同時に一緒に回る選手にもあれこれと気が回る。それがごく自然と出来る。

そして、なんといっても気持ちの盛り上げ方が上手い。これは藤本も常々言っていることだが、優勝争いの緊張状態の中にあっても、どこかホっとさせる話術に長けている一方でその間合いやタイミングなど、選手の心を下手に緩ませすぎない、そのサジ加減も絶妙なのだ。「そんなキャディを得た伊澤がうらやましい」と、先の某選手は言ったものだ。

伊澤と前村さんの初タッグは1997年だった。プロキャディという概念が、日本ツアーにも浸透し始めた時代のことである。伊澤は心身共に前村さんを信頼しきっていた。最強タッグが、2001年と2003年の賞金王獲りにつながったのは、言うまでもない。当時は「伊澤といえば、なおさん(前村さんの愛称)」と言われたほど。この先、何があっても二人が離れることは絶対にないだろうと、周囲にも思わせるくらいの強い絆があった。

そんな前村さんが、今季から藤本のバッグを担ぐことになったのには本人たちにしか決して分からない葛藤や事情があったのだと思う。何はともあれ、2人はそれぞれの道を歩き始めた。

どんなに選手に高い潜在能力があったとしても、支えてくれる人との足並みが揃わなければ、宝の持ち腐れである。その点、前村さんはさっそくと藤本のそれを引き出してしまった。

ルーキーとベテランキャディの輝かしい活躍を目の当たりにするにつけても、昔からのいちゴルフファンとしては尚更、かつてあのパーマーに「キング・オブ・スイング」と言わしめた伊澤利光という天才ゴルファーの復活を願わないではいられない。

今や賞金シードの確保にさえあえいでいるが、それは決して真の姿ではない。ツアーいちのスインガーが繰り出す胸のすくようなティショット。狙った獲物を確実に射貫くアイアンの切れ。あれほどのスーパープレーで観衆を魅了しておきながらもどこか浮き世離れしたような、飄々とした立ち振る舞い。そのギャップがまた、通なゴルフファンを引きつけたものである。月並みな言い方しか出来ないが、あえて言わせて欲しい。「頑張れ、伊澤・・・!! ぜひもう一度、あの輝きを見せてくれ」と。