ツアープレーヤーたちの素顔<池田勇太>
かねてより、連日大ギャラリーを引き連れて歩く石川遼を横目に見て、「遼くんはかわいそう」と同情していた。「だって、あれじゃあ電車にも乗れないじゃん。俺は絶対に嫌だね。有名になんかなりたくない」。しかし、近頃ではそうもいかなくなってきた。その石川と、史上最年少の賞金レースの渦中にいて、メディアでも取り上げられることががぜん、多くなってきた。先週は2週連続で朝のテレビ番組に取り上げられ、その人柄や、服装などが子細に紹介され、この数週間で池田の知名度も格段にアップした。
ジャンボ尾崎に心酔して、3タックのスラックスを頑固に愛用し続けていること。ガニ股でコースを闊歩。ゴルフの腕前はすこぶる強く、べらんめい口調で“俺様”ぶりを発揮していることなどなど…。常に爽やかで好青年な石川とは対照的な存在として、スポットライトを浴びることになった。
さらに先週の「コカ・コーラ東海クラシック」ではついに、2人が賞金ランクの1位と2位になってから、初めての同組ラウンドが実現して注目を集めた。初日から5,000人近くのギャラリーが押し寄せ、ロープの外は、みごとに石川派と池田派に別れてファンの舌戦がさかんに繰り広げられた。それはまるで、自分たちの息子を見つめる視線にも似て、やれ「あの勇太くんの服装はなに!? 遼くんみたいに爽やかに出来ないものかしらね」とか、「いやいや、あのアクの強さこそが勇太くんの良さだわ。私は好きよ」とかとか…。そんな声が、そこかしこから漏れ聞こえてきて、なかなか面白かった。
とにもかくにも、すっかりヒール役が定着してしまった感のある池田だが、その素顔は意外にも「ナイスガイ」と評判だ。選手会長の宮本勝昌が証言する。「一緒に回ったら、それが分かります。僕らにも凄く気を遣ってくれるし、こちらのショットのたびに“ナイス”とか、“止まれっ”とか、真剣に言ってくれるし、本当に彼は凄く良い子ですよ」と言う通り、初めはその前評判に警戒し、眉をひそめていた人も、池田と親しく接するうちに、すっかりその虜になってしまうようだ。
乱暴な言葉遣いの合間に、ふいに優しいまなざしをして、「ああ、そういえば、あのときはありがとね」ときちんとお礼を言ったり、お世話になった人には90度に腰を折って頭を下げたり…。ふとしたときに見せる表情に、「ほんとうは純粋な子なんだな」というのがにじみ出ていてそれがまたなんともニクいのだ。いつも強気なコメントや一見、ふてぶてしく思える態度も、何を言われても自分を曲げない頑固さも、実は真っ直ぐな心の裏返しなのかもしれない。
そういえば以前、町のコンビニエンスストアでばったり会った際に、なんと彼はノータックのスリムなパンツを履いていた。コースで醸し出す“昭和風”の匂いはまったくなく、いたってイマドキの男の子だった。プライベートは3タックじゃないんだねと聞いたら、「たまにはこういうのも着るさ」と、しれっとして答えた。新鮮な思いでしげしげと眺めていると、「なんだよ、文句あるのかよっ」と威嚇しながらもちょっぴり照れくさそうで、彼の新たな一面をまたひとつ発見した気分だった。
そんな23歳がいま、18歳と男子ツアーを引っ張っている。I・Iコンビの2人にはAONのように、これから先も良きライバルとして末永くツアーに君臨してもらいたいと心から願う。