ツアープレーヤーたちの海外遠征記<五十嵐雄二>
8月の世界ゴルフ選手権「ブリヂストンインビテーショナル」に出場した五十嵐雄二は、到着するなり波乱続きだった。まずは空港で、待っているはずの迎えの車がいなくて、泡を食った。関係者に国際電話で問い合わせると、「いや、必ずいるはず」。もういちど、辺りを探し回って、ようやくそれらしき人物を見付けた。「てっきり、何か看板を持って立っていてくれると思い込んでしまって。その人、普通にくつろいで椅子に腰掛けて待っていたから迎えの人だって分からなかったんです」と、苦笑する。
現地入りしても、選手受付がどこだか分からない。スタート時間の案内も、どこで確かめればいいか分からず結局、ホテルのフリースペースに置いてあったパソコンでチェックした。言葉の問題も大きかった。「英会話の本を持って行ったんですけど、全然役に立たなくて……」。どうにか片言で喋れても、相手が言っていることがまったく聞き取れなくて、往生した。レストランでは、頼んだつもりのないものがテーブルに大量に並べられ、情けない気持ちになったものだ。買い物するにもひと苦労だった。部屋でビールでも飲もうとスーパーに行ったらIDの提示を求められた。部屋にパスポートを置いてきた、と言ったら購入を断られた。身長170センチの体には、40歳にはとても見えない童顔が乗っている。「海外では小さいほうだし、未成年と思われちゃったみたいで」と、頭を掻いた。
いざ、始まった本戦も「俺が出る幕じゃなかったかも」と、自嘲の笑みだ。6月の「UBS日本ゴルフツアー選手権 宍戸ヒルズ」の優勝特典として得た米ツアーは、これが初挑戦。「それまでアメリカなんか、眼中にもなかったから」。いきなり、世界舞台に放り込まれて、戸惑うばかりだ。初日は190センチを超える2人の大選手に挟まれながら、4オーバーで何とか踏ん張ったが、悔やまれるのは大会2日目。「普段はめったにキレたことがない」という選手が、1ダブルボギー、12ボギーにすっかり集中力を無くしてしまった。通算17オーバーで最下位まで落ちて、途中ひとりの棄権者が出たために、週末はあぶれてたった一人でラウンドすることになってしまった。「せっかくいろんな選手をみたいと思っていたのに、大会を味わうどころの話しじゃなくなってしまって。キレてしまったことを、大いに反省した」という。
幼なじみの榎本陸さんをキャディに、家族を伴って、はるばるやってきた海外遠征は、散々な結果となってしまったと反省しきりの五十嵐だが、次男の輝くんには良い思い出になったようだ。父親を心配して「オヤジ大丈夫なのかよ」と毎日ひつこいくらいに聞いてきた輝くんだったが、ちゃっかり節目のツアー通算70勝目をあげたウッズにサインをもらうことに成功し帰国後は額に入れて大事に飾った。今まで見向きもしなかったゴルフにも少し、興味を示すようになり、「俺もやってみようかな」とまで言うようになった。
結果はさておき、五十嵐も初上陸のアメリカを堪能した。最終日もトップスタートで、早々にプレーを終えると最終組について歩いた。しかし4重、5重にも重なるギャラリーに、「俺は小さいから全然見えなくて」。移動観戦を断念。18番ホールに陣取って延々4時間、待ち続けた。その末に目撃した優勝の瞬間には心底シビれた。「タイガーは本当に格好良くて。オーラがびんびんに出ていた」と、その姿をしっかりと胸に焼き付けた。ハプニング続きの海外遠征に、もうこりごりかと思いきや、そこはやっぱりプロゴルファーだ。負けたままでは気が済まない。「今回は、悔しい思いのほうが多かったから。もう1回行って、今度こそという気持ちがある」。おもしろおかしく観戦記を語ってくれた五十嵐だったが、最後は真顔でそう言った。