国内男子ツアー

選手会長なのにLIV参戦? 谷原秀人が批判に答えた/単独インタビュー

2023/01/21 17:30

PGAツアーの集権化

権威にだって物申す

LIVに参戦した選手たちへの一部からの批判は欧米に限ったことではない。中でも選手会会長の谷原は日本勢では最も矛先を向けられた選手だった。

谷原はイチ選手として、LIVによってキャリアの選択肢が増えることは、プレーヤーにとって有益だと強調する。「より良い選手たちがいるところで戦うこと、刺激をもらえる立場にあって、試合に出ないということ(選択)は正しいだろうか。選手が選べる職場がそこにあるのに『行ってはいけない』というのは不思議な感覚にもなる」

昨今のプロゴルフ界における、過度な米国中心の勢力図が気にかかるという。PGAツアーはLIV参加選手を排除する手段を講じたが、「実際には(LIVの選手は)欧州もアジアも、日本ツアーにも出られる。今、出られないのはPGAツアーだけ」と首をひねる。

「すべてがPGAツアー寄りになっている」。昨年8月に施行された世界ランキングの新システムでは、PGAツアー、下部コーンフェリーツアーへの付与ポイントが相対的に高くなり、欧州、日本をはじめとした諸外国のツアーへの配分が下がった。ロリー・マキロイ(北アイルランド)やジョン・ラーム(スペイン)らトップ選手も悲観的な見解を示した。

「世界ランクが“PGAツアー、一極”になりつつある。コーンフェリーツアーの方がDPワールドツアー(欧州)よりも、ポイントが高くなる恐れがあって、これでは米国からしかメジャーに出られなくなる。欧州はPGAツアーに取り込まれてしまう。来年から(ポイントランク)トップ10人がPGAツアーの出場権を得られるというのは、(PGAツアーの)下部ツアーの扱い。牛耳られているようにすら見える」

PGAツアーが男子ゴルフの盟主であることには違いないが、集権化を危惧する。「PGAツアーからの“制裁”は今もあって、いつまで(LIVを)イジメるんだとも思ってしまう。LIVの結束は強い。(昨年10月に中東の)MENAツアーと手を組んで世界ランキングポイントが少しでも入るという話が、タイでの試合の時に発表されて、みんな喜んだ。フィル(・ミケルソン)はそのパーティの壇上で突然、『ひと言、しゃべらせてくれ。新リーグが選手のために動いてくれること、あなたたちへの努力に本当に感謝する』とマイクを持った。結局、話はなくなってしまったが…」

選手会長の仕事とは

選手会長として

プロゴルフ界の最前線と言える話題を、身をもってキャッチしてきた反面、44歳は日本の選手をリードする立場にありながら、見方によっては母国ツアーをないがしろにしているようにも映る。LIVへの参戦により、今季は選手会主催の大会を含め、国内ツアーを8試合欠場した。谷原自身、選手会長の役割をどう考えているのか。

「(国内)ツアーに出場して盛り上げることも大切だが、選手がやりやすい職場を残したいと思っている。実際には、選手会長に独断で何かを決める権限はない。会社の社長でもないし、選手会は理事のみんな、選手たちと何かを決めていくもの。一般的な選手会長のイメージは分からないが、それぞれ違うはず。日本ツアーでは今、選手、選手会長が大会のスポンサーを探す(べきだという)ような節もある。『ここの会社が試合をやりたいと言ってくれている』と話をつなぐような役割。そういった負担を選手側が長い間、負っている。大会のスポンサーを探すことは本来、選手の仕事と言えるだろうか。そういう選手側の不満をツアーに“突っ込む”のも、選手会長としての仕事でもある」

外の世界を見たからこそ、選手の立場で感じる「不満」。それを“うやむやに”するべきではないという。

「例えば競技にしても、(国内ツアーは)コースセッティングも海外と違う。世界では確かに距離が長いのが当たり前になっているが、距離が長い設定ではラフを短くしたり、グリーンもパンパンに(硬く)しなかったり、フェアな設定を目指している。考え方が違う。プリファードライのローカルルール(※雨でぬかるんだフェアウェイから打つ際に無罰で泥を拭き、打つ地点を変えるなどの救済措置)も、海外では当然出るようなときに、日本ではなかなか出されず、(プレーする時間帯によって)フェアでない時がある」

「本当におれでいいのか?」

男子ツアーへの思い

選手会長はツアーメンバーの投票で選ばれた18人の理事の中から選出される。昨年1月の就任時、谷原は今後も海外でのプレー機会を模索すること、家庭の事情もあり国外での滞在が多いことへの了承を得た上で、要職に就いたという。「最近も何人かに聞いたところ。本当におれでいいのか?って」

数年後にはシニアになる年代だが、日本ツアーの将来への不安を解消したい。

「イチから、全てを作り直すようなつもりでないといけない。ツアーがすべてのスポンサーに『こうしていきましょう』という道筋を作れるようにならなくては。時代が変わっても昔のまま、『今までこうやってきたから』で話が終わってしまうことが多々ある。『海外ではもう違いますよ』『こうやったら盛り上がりますよ』とリードできるようにならないと。テレビ中継や報道に関しても、そうかもしれない」

これからも続いていく

ツアー側との話し合いは終わることがない。ただ、谷原は物事が予定調和であってばかりでは望ましくないと考える。前に進むためには侃々諤々(かんかんがくがく)があって当然。

「ゴルフ界の中身を変えてもらうため、いろんな人に相談している。ツアーが誰かに私物化されるようではいけない。(トップダウン型の)会社とは違う。いろんなところから人が集まって、意見を聞いて作っていかないと良いものはできない。成果が出なければ、もちろん自分も批判されるのは当たり前。それは僕たち選手が一番、分かっている。だから練習をして、トレーニングをして、努力している」

(聞き手・構成/桂川洋一)

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