トーマスが追う偉大な先輩の背中
「WGCブリヂストン招待」は、2位と3打差の首位でスタートしたジャスティン・トーマスが、初の世界ゴルフ選手権(WGC)制覇という形で幕を閉じました。今回私が強く感じたのは、彼の勝ち方が全盛期のタイガー・ウッズを連想させるものだったという点です。
トーマスは昨季年間5勝を挙げ、一躍トップ選手の仲間入りを果たしましたが、2016年の初勝利から通算4勝目までは、すべて20アンダー以上というビッグスコアでの優勝。難しいセッティングでの勝利がないことからその強さを疑問視する声が上がっていました。
それを払拭させたのが、クエイルホロークラブで行われた昨年の「全米プロゴルフ選手権」でした。通算8アンダーというスコアでメジャー初優勝を果たし、2016-17年シーズンの年間賞金王を獲得。また今季に入ってからの2勝「ザ・CJカップ」「ザ・ホンダクラシック」は、どちらも1桁アンダーでの勝利と、どのような状況下でも勝てることを証明してきました。
そして今季3勝目となった「WGCブリヂストン招待」で見せた彼の成長は、3日目を終えた時点で2位ロリー・マキロイ(北アイルランド)と3打差トップでスタートした点に集約されている気がします。意外かもしれませんが、“3打差”というのは、トップに立つ選手にとって最もやりにくい数字と言えるからです。
3打差は自身がダブルボギー、同時に相手がバーディで、一気に追いつかれてしまう決してセーフティリードとは言えない差。1、2打の差であれば、ギャラリーの注目は自分だけではなく、追いかける選手にも分散されますが、3打差はゲームを作るのも壊すのも自分自身。周りからの注目は自分だけにそそがれ、大きなプレッシャーを負うことになります。
ましてや相手は、世界屈指のトッププレーヤーであるマキロイ。大きなプレッシャーを前日から感じつつ、その重圧に耐えながら、最終日の18ホールをまわりきらなければいけません。そういう面で非常にストレスを感じ、逆に一気に追い抜かれてしまう危険性の高い状況からのスタートだったのです。
最終日はファイヤーストーンCCの硬いグリーンに多くの選手が手こずる中で、トーマスは2バーディ、1ボギーの「69」で回りました。2位と4打差をつけての勝利。相手がマキロイであろうと、一時は2打差に迫ったジェイソン・デイ(オーストラリア)であろうと、他を寄せつけない安定したゴルフを展開しました。まさに全盛期のウッズの姿を重ね合わせてしまうような、強い印象を与える勝ち方を演じました。
彼がこの勝利で得たものは、今シーズンの賞金レースでトップに立ったこと(8月6日時点)と、もうひとつ。次週「全米プロゴルフ選手権」の連覇に弾みをつけたことです。「全英オープン」で2年連続予選落ちを喫したトーマスにとって、いま一番手に入れたい目標は、全米プロ連覇に違いありません。そして、直近で全米プロ連覇を成し遂げたのが、タイガー・ウッズなのです(2006、07年)。
トーマスとウッズ。彼らの関係性は、トーマスが勝利するたびにフロリダ州ジュピターにあるウッズ所有のレストランで祝勝会を催すほどの仲。頻繁に練習ラウンドを一緒に行う光景を見かけます。10~20年前にゴルフを始めたトーマスの世代にとって、当時第一線で活躍していたウッズは大スターであり、憧れの存在。その偉大な先輩と一緒に練習を行うことで、ゴルフに対する姿勢や向上心、またプレースタイルに大きな影響を受けているのだと推測できます。
いまトーマスが見つめる先には、憧れだった先輩の背中だけではなく、ウッズが2年連続で受け取った全米プロのトロフィーが映っていることでしょう。(解説・佐藤信人)