イ・ボミが最終戦を前に達成した“もう一つの”目標とは?
◇国内女子◇大王製紙エリエールレディスオープン 最終日(20日)◇エリエールGC松山(愛媛県)◇6474yd(パー72)
「今年は少し調子が悪い?」コース内外でイ・ボミ(韓国)を取り巻く周囲からは、こんな声が聞こえていた。昨年はシーズンを通して上位で戦い、年間7勝を挙げて男女両ツアーを通じて史上最高額の2億3049万7057円を稼ぎ出した。その印象を持って今年を見ると、体調不良による棄権もあり物足りなさを感じたのだろう。ただ、イは確実に強くなっている。「まだまだ進化の途中ですよ」とキッパリ言い切るのは、昨年から専属トレーナーを務める渡辺吾児也(わたなべ・あるや)さんだ。
昨年、賞金女王を決めたのは今年よりも1試合早い「伊藤園レディスゴルフトーナメント」。優勝でのタイトル奪取は鮮やかでインパクトが大きかった。しかし、平均ストロークに目を向けると、昨年は「70.19」だったが今年は「70.02」。1ラウンドごとの成績では、去年を上回っている。そもそも、主要スタッツ6部門(イーグル数を除いた)のうち4部門で昨シーズン以上の結果を見せているのだ。
最も進化したのはリカバリー率※。清水キャディが説明する。「今年はアプローチの練習に時間を割いた。難しいショットじゃなくて、簡単なことをミスなくやるという練習でした」。この練習の成果は数値に大きく表れた。昨年「66.52%」で6位だったリカバリー率は、「73.45%」でツアー1位。これは昨年、同部門で1位だったアン・ソンジュ(韓国)を2.5ポイント上回る数字。賞金女王レースを争った申ジエ(韓国)もうなずく。「ボミさんはピンチに本当に強いです」
今大会で2年連続の2億円超えの夢は絶たれた。だが、「まったく考えてなかったです」と言うのは本音だ。今年、最大の目標としていた8月の「リオデジャネイロ五輪」に出場するため、海外の試合に積極的に参加した。開幕前はタイで米女子ツアーに出て、4月「ANAインスピレーション」、7月「全米女子オープン」。海を渡れば、日本では数試合を休まざるを得ない。最終戦のLPGAツアー選手権リコーカップ出場で今年は28試合。昨年は32試合だった。
ただ、圧倒的な強さでツアーを席巻した昨年。誰もがイを真のチャンピオンとして認める中で、イのチームメンバーの一人が「すごい!」と脱帽した選手がいた。賞金ランク2位のテレサ・ルー(台湾)だ。賞金女王を狙うために日本ツアーに専念したイに対して、ルーは「刺激が大きいから」と海外メジャー「ANAインスピレーション」「全米女子オープン」「全英リコー女子オープン」に出るなどワールドワイドに活躍してツアーは26試合にとどまっていた。それでも年間5勝をマークして1億4695万7679円を稼いだ。
「今年は、去年のテレサ・ルーを超えるのを目標にしていた。だから、終盤に足踏みをしていると周りから言われましたが、日程なども踏まえると、僕らとしては想定の範囲内でした」と渡辺トレーナー。大王製紙エリエールレディスオープン終了時点で、イは賞金1億7411万4764円まで積み上げた。「上出来です」とイのチームのメンバーは口を揃える。圧倒的な強さが印象に残った昨年以上の充実感を漂わせていた。(愛媛県松山市/林洋平)