“スマイルキャンディ”から消えた笑顔 イ・ボミが最後まで貫いたプロ意識
予選第2ラウンドの18ホールを終えると、イ・ボミ(韓国)はグリーンを取り囲む多くのギャラリーに向けて、はにかみながらも清々しい笑顔を見せた。今季は8試合に出場し、すべて予選落ち。4日間プレーするという目標に届かず、有終の美とはいかなかったけれど、ゴルフへのモチベーションを奮い立たせて臨んだ1年を最後まで走り抜いた。
今季開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」前の2月27日、今季限りの国内ツアー撤退を発表した。表明のタイミングをシーズン開幕前にしたのは、最後の勇姿を一人でも多くのファンに届ける機会を作りたかったからだ。
近年は不調に悩む日々が続き、笑顔が次第に少なくなった。「いいプレーを見せることができなくて、応援に来てくれるファンに申し訳ない」。出場試合の前、口をつくのはネガティブなことばかりだった。
「大丈夫、自信を持って」「ギャラリーはボミの笑顔を見に来ているんだよ」。マネジャーを始めチームの面々は鼓舞してくれた。しかし、真面目で頑固な性格ゆえ、ファンの声援に応えたい気持ちと、うまくいかないプレーに生じるズレ。成績が伴わなくとも、できる精一杯のゴルフを見せることが、プロとして“あるべき姿”と思っている。そんな彼女のプライドが笑顔になることを許してくれない。
マネジャー「ボミさん、笑顔でね!」
ボミ「へたくそなゴルフをしているのに、笑っていたらファンの方に失礼でしょ?」
マネジャー「ヘラヘラとニコニコは違うの」
ボミ「でも…」
そんな押し問答を繰り返した。
引退を意識し始めてからのここ2年間は思い通りにいかないプレー同様、モチベーションの維持にも苦しんだ。試合の合間を縫い、日韓を往復して夫のイワンさんとの時間を大切にする一方、韓国ではコーチをつけて練習に励んだ。「ほかのプロたちが、休みなく練習しているのは知っているから。私のような練習量ではぜんぜん足りないのも理解している。それでも、いまできることをして、プロとして試合に臨みたい」
不甲斐ない成績でホールアウトすれば、心はいまにも折れそうで、泣きたい日もある。でも必死に笑顔を取り繕ってきた。ラストゲームを控えた前週、いつになく本音をこぼしたこともあった。「みんなに会えなくなったり、日本ツアーを離れるのは本当にさみしいけど、どこかちょっとホッとしている気持ちもある」。苦しい葛藤の日々がようやく終わる…。
2日目の最終ホール。ボールをカップに沈めて見せた笑顔は、達成感と安堵、さみしさ、そして常に忘れることがなかったファンへの感謝が入り混じっていた。“スマイルキャンディ”の愛称に相応しい、心からの笑顔をやっと取り戻した。(編集部・糸井順子)
■ 糸井順子(いといじゅんこ) プロフィール
某自動車メーカーに勤務後、GDOに入社。ニュースグループで約7年間、全国を飛びまわったのち、現在は社内で月金OLを謳歌中。趣味は茶道、華道、料理、ヨガ。特技は巻き髪。チャームポイントは片えくぼ。今年のモットーは、『おしとやかに、丁寧に』。