高校生で受けた医師の“宣告”にがく然 比嘉一貴が証明したプライド
◇国内男子◇カシオワールドオープン 最終日(27日)◇Kochi黒潮CC(高知)◇7335yd(パー72)
小学生のときは、背の順では後ろから数えた方が早かった。「この子の成長は、止まったね」と医師から言われたのは高校時代。骨折を診てもらいに行っただけなのに、比嘉一貴は思わぬ宣告を突き付けられた。
いまの身長が158㎝。たしかに、当時からあまり変わっていない。「まさかボクより小さくなるとは思わなかったなあ。でも、そこから筋トレをするようになった」と、父・洋さんは自分より7cm小さい新賞金王の話を可笑しそうに教えてくれた。
努力家の息子は、幼少から何をするにもガムシャラだった。小学生のころはハンドボールに打ち込んだが、10歳のときにゴルフ場で球を打たせたらすっかりハマってしまった。「プロゴルファーになるから、やらせて!」とねだられたのはその日の夜。「ゴルフは1日休んだら3日戻る。ハンドと両立はできないぞ」とたしなめたら、迷わず「やる」と返事してきた。
ハンドボールの練習を終えて夜は毎日500球。休みの日は朝7時に練習場に置いてくると、3000~3800球を打って帰って来た。「こんな子がプロにならないなら、どんな人がなる」。息子がプロゴルファーとして活躍する日は、簡単に想像できた。
比嘉が念願のプロ転向を果たしたのは2017年。アジア下部ツアーで2勝を挙げて日本に戻ると、18年に出場わずか9試合で賞金シードを獲得し、翌年「RIZAP KBCオーガスタ」でレギュラーツアー初優勝を挙げた。
当時も、注目されるときの枕詞は“最も身長の低いチャンピオン”。今季4勝を挙げて勝ち取った賞金王も、身長は歴代のなかで“最小”の記録になった。体格に悩む多くの人にとって価値あるものだと自覚しながら、「どうしてもそこが目立つけど、身長は言い訳にならない」という思いは注目されるたびに増していった。
ゴルフの好きなところは、すべてが自分の責任で動くこと。「ほかの誰のせいでもなく、(やったことが)自分に全部跳ね返ってくる。毎年終わって反省して、修正して、それがうまく行くのも楽しい」。自分次第でチャンスは開ける。“最小”賞金王は、意地でそれを証明した。(高知県芸西村/谷口愛純)
■ 谷口愛純(たにぐちあずみ) プロフィール
1992年生まれ。社会部記者、雑誌の営業その他諸々を経てGDOに入社。ゴルフは下手すぎて2017年に諦める。趣味は御朱印集めと髪色を変えること、頭皮を想って最近は控えてます。