2021年 アジアアマ

ヒーローはここから…中島啓太が勝つべくして勝ったアジアアマの文脈力

2021/11/09 10:10
中島啓太のストーリーはまだ始まったばかり(大会提供)

◇アジアパシフィックアマチュアゴルフ選手権 最終日(6日)◇ドバイクリークゴルフ&ヨットクラブ(UAE)◇7203yd(パー71)

アラブ首長国連邦のドバイで開催された今年のアジアアマは、“筋書きのある”ドラマだった。だがそれは、最初から中島啓太が勝つことが決まっていた、という意味ではない。

今年4月、松山英樹がアジア人として初めてマスターズ制覇を果たしたが、その長い道のりは2010年のアジアアマ優勝から始まっている。翌2011年に初めてオーガスタの地を踏んでローアマチュアを獲得し、それから10年後、ついに頂点まで登りつめたというストーリーだ。

「CREATING HEROES IT ALL STARTS HERE」(ヒーローの誕生 ここから全てが始まる)というのが今大会のキャッチコピー。看板やポスターなど至るところに、東北福祉大のユニフォームを着たアマチュア時代の松山と、グリーンジャケットに袖を通して両手を突き上げる松山の写真が並べられた。メッセージは明確だ。この試合に勝つことは、マスターズ制覇へとつながっている。

簡潔で強いメッセージを持つ大会のメインビジュアル

世界アマチュアランキング1位の中島はその地位に加え、松山と金谷拓実に続く日本のエースとして、ほぼ一身にその注目を集めていた。大会3日目の夜に行われたマークマコーマックメダルの授与式には、オーガスタナショナルGCのフレッド・リドリーチェアマンや、R&Aのピーター・フォースターキャプテンらVIPも顔をそろえた。

誰もが中島が勝つことを期待していた、というつもりはない。だが、大会やアジア地域におけるゴルフの発展において、松山が成し遂げたこと、そして中島がその後を追って栄光をつかもうと挑むことには非常に大きな意味がある。大会の注目がより高まり、松山や中島に憧れてゴルフを始めるアジア人も増えるだろう。ヒーローの出現により、ゴルフの底辺は拡大していく。それが、VIPたちの共有するビジョンでもある。

それは同時に、コンテキスト(文脈)の力とも言える。大会の持つ意味が単に1大会の出来事にとどまらず、さらなる未来や過去の歴史にひも付いて、様々なストーリーを紡いでいく。

ウォーターシャワーで喜びを味わった後、最後はコースに深々と一礼する中島啓太

ひるがえって足元を見てみると、国内男子ツアーでは毎週優勝者が誕生するが、ストーリーの広がりは限られている。シーズンが終わり、賞金王が決まっても、それでマスターズに招待されるわけでも、PGAツアーの出場資格が得られるわけでもない。ただ、賞金王として名前が残るという内輪の話で終わってしまう。

もちろん、それは偉業であるし、その価値も否定はしない。選手個人にとっては大きな通過点、もしくはゴールであることも間違いない。それでも、全体の仕組みとして、その先につながるストーリーが生まれないのは残念だ。進んだ先が行き止まりなら、戻るしかない。興味は1シーズンから1大会、1ラウンド、1ホール、1打へと細切れにされていき、いずれやっていることの意味すら分からなくなってしまうだろう。

松山のマスターズ制覇は、アジアアマのコンテキストを完結させた。国内ツアーに必要なものも、そんな夢が見られる道筋やビジョンだと思う。単に主催者が1試合ずつ開催しているだけでは、いま以上の発展は望めない。この変化の時代、新たなコンテキストを作るには絶好のチャンスでもあるはずだ。(アラブ首長国連邦ドバイ/今岡涼太)

■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール

1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka

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