ただ一人の全メジャートップ10入り “成熟”マキロイこそウッズの後継者
キャメロン・スミス(オーストラリア)が今季メジャー最終戦「全英オープン」を制しました。今季ブレークした選手と言えば、ツアー初優勝から世界ランキング1位到達、そして「マスターズ」制覇と破竹の勢いをみせるスコッティ・シェフラーが真っ先に思い浮かぶところですが、こちらも負けていません。
1月のハワイではツアー新記録となる通算34アンダーで優勝。“第5のメジャー”と称される「ザ・プレーヤーズ選手権」制覇に続き、聖地セントアンドリュースでコースレコードのトータル20アンダーとして初のメジャータイトルをつかみました。同一年のプレーヤーズと全英の2冠はジャック・ニクラス(1978年)以来となる史上2人目。まさに記録ずくめのシーズンを送っています。
その勢いの前に屈する結果とはなったものの、第150回という節目の大会を最後まで盛り上げてくれた選手はロリー・マキロイ(北アイルランド)で異論はないでしょう。7年前に連覇をかけて乗り込むはずが、サッカーによるけがのために欠場を余儀なくされたセントアンドリュース。「聖杯」と表現してクラレットジャグを追い求める姿は、この地で全英を勝つことの重みを教えてくれるものでした。
思い返せば、コロナ禍で大きく調子を崩した選手の代表格がマキロイだったのかもしれません。肉体改造で衝撃的な飛距離アップに成功したブライソン・デシャンボーに触発され、さらなる飛ばしを求めて失敗。年間王者に輝くなどシーズンをまたいで4勝した2019年から一転、20年は1勝もできず、キャリア初といってもいいスランプに陥っていました。
復調の兆しが見えてきたのは21年も後半に入ってから。11月にドバイで行われた欧州ツアーの最終戦で終盤に失速して優勝を逃すと、思わずシャツの胸元を引きちぎるほど感情をあらわにしたことがありました。波紋を呼んだ行動とはいえ、それだけ勝負に対して貪欲で、高いモチベーションを維持している証拠。年末には幼い頃から長年指導を受けてきたマイケル・バノンさんが再びコーチへ戻り、新たな年に臨んでいたのです。
プレー面の変化も明らか。世界屈指のドローヒッターとして名をはせてきたマキロイですが、1Wでフェードを打つ場面も目立ちます。タフなメジャーセッティングで無理をして自滅するシーンが少なくなかった以前に比べ、終始粘り強くプレーできている印象も。コースが求めているプレーに徹する忍耐強いマネジメントは、11月開催だった20年のマスターズを勝ったダスティン・ジョンソンから気付かされた部分も大きかったといいます。
マスターズ2位、全米プロ8位、全米オープン5位、全英オープン3位と今季のメジャー全てでトップ10入りした唯一の選手。これはマキロイ自身にとっても初めてのことであり、全英、WGC、全米プロと3連勝を飾った14年を最後に遠ざかっているメジャーの頂きに返り咲く日も遠くないと感じました。
セントアンドリュースでクラブハウスを基点とし、1番から9番を「Going out」、10番から18番を「Coming in」と呼んでいたことが、前半9ホールを「Out」、後半9ホールを「In」とする由来。全英2日目、その最終18番に帰ってきたタイガー・ウッズを見守っていたのが、これから出ていくマキロイやジャスティン・トーマス、松山英樹選手といったプレーヤーたちでした。
来年以降、ウッズがどれだけのメジャーに出られるかは未知数。当地では最後になるかもしれない雄姿を目に焼き付けたマキロイがスーパースターの系譜を受け継ぎ、今後のゴルフ界を引っ張っていってくれるはずです。(解説・進藤大典)