2022年 全米オープン

レジェンドキャディの涙 全米オープンは“2人”の初優勝だった【進藤大典キャディ解説】

2022/06/21 17:05
フィッツパトリックのメジャー初制覇を支えたベテランキャディのビリー・フォスター氏(David Cannon/Getty Images)

マシュー・フィッツパトリック(イングランド)が「全米オープン」でメジャー初優勝を遂げました。PGAツアー106試合目での初タイトル。今季のスタッツを見渡すと、“満を持して”といった印象も受けます。全米オープン前の時点で出場14試合のうちトップ10入りが7度。スコア貢献度を示す「ストロークゲインド」でもただ一人、ティショット、アイアン(グリーンを狙うショット)、アプローチ、パッティングと4つのカテゴリー全てで部門別25位以内にランクイン。隠れた絶好調男だったのです。

アマチュア時代の輝かしい実績の数々のひとつが2013年「全米アマ」優勝。くしくも会場は今回の全米オープンと同じザ・カントリークラブでした。直近ではブライソン・デシャンボーが達成した、全米アマと全米オープンの2冠は史上13人目。同一コースでの優勝に限れば、あのジャック・ニクラス(カリフォルニア州ペブルビーチGL)しかいなかった快挙です。

優勝の瞬間、もしかしたらフィッツパトリック以上に感情をあらわにしていたのがキャディのビリー・フォスターさん。故セベ・バレステロス(スペイン)、ダレン・クラーク(北アイルランド)、リー・ウェストウッド(イングランド)…。40年以上にわたって数々の名選手をサポートしてきた大ベテランも、メジャー優勝は初めてでした。

フィッツパトリックの優勝を喜んだ

僕が松山英樹選手のキャディとして米国での戦いをスタートさせたとき、マネジャーのボブ・ターナーさんから“欧州ナンバーワン”として紹介されたのがフォスターさん。「いいなあ。目も衰えていないからグリーンも読めるし、頭の回転も速い。体も元気でうらやましいよ」。当時34歳の僕に対してジョークを飛ばしながら、10年近く経った後でもトップ選手のバッグを担ぎ続けているのですから、本当に頭が下がります。

実際に話す前から、その存在は知っていました。2007年、谷原秀人選手のキャディとしてドバイの試合に行ったときのことです。2000年「WGCマッチプレー選手権」決勝でタイガー・ウッズを撃破したクラークも、当時は調子が下降気味。火曜日のドライビングレンジでウッズのもとに足を運んでアドバイスを求めている様子を見て驚きました。

傍らでサポートしていたのがフォスターさん。バッグから日記を取り出し、過去のクラークのチェックポイントを丁寧に確認しながら“ボス”に寄り添っていたことを覚えています。

ウッズの全盛期を支えたスティーブ・ウィリアムズ氏は世界一有名なキャディ※写真は2011年「マスターズ」 (Andrew Redington/Getty Images)

キャディ界にもレジェンドと呼ばれる存在が何人かいます。ウッズが1997年「マスターズ」で優勝したときにバッグを担いでいた“フラフ”ことマイク・コーワンさんは白い口髭がトレードマーク。今回の全米オープンにも長年タッグを組むジム・フューリックと参戦していました。ウッズの全盛期を支えたスティーブ・ウィリアムズさんは、世界一有名なキャディといっても過言ではないでしょう。かつて25年にわたってフィル・ミケルソンとともに戦った“ボーンズ”ことジム・マッケイさんは、現在ジャスティン・トーマスの相棒です。

そして、フォスターさん。彼のキャリアにやっとメジャータイトルが加わった幕切れは本当に感動的でした。ビリー、おめでとうございます!(解説・進藤大典)

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