闘争心と家族愛 ジャスティン・トーマスこそ“ポストタイガー”
開幕まで1カ月を切った「マスターズ」へ主役が調子を上げてきた感が漂います。ジャスティン・トーマスが“第5のメジャー”とも称される「プレーヤーズ選手権」を制しました。
特に決勝ラウンド36ホールは圧巻のプレーでした。フェアウェイを外したのが6ホール、パーオン失敗も5ホール。最終日にいたってはグリーンを外したのがラストの18番だけで、パットのスコア貢献度を示す「ストロークゲインド・パッティング」は「-2.053」。グリーン上の低調なスタッツは、あの難しいTPCソーグラスを相手にどれだけ驚異的なショットを連発したか逆説的に物語っています。
メジャー、WGC、フェデックスカップ(年間王者)に続くビッグタイトル獲得。1960年以降に限れば、28歳を迎える前に通算14勝を積み上げたのはタイガー・ウッズ、ジャック・ニクラス、ジョニー・ミラーに次ぐ4人目の快挙でした。PGAツアー通算165試合でトップ10入りが59試合と安定感もすさまじいレベル。
メジャーこそ2017年「全米プロ」の1勝のみとなっていますが、“ポストタイガー”の筆頭候補と呼ぶにふさわしい実績の数々です。
現役ツアー選手の中でウッズと最も仲が良いのもトーマスでしょう。フロリダ州の自宅が近所にあり、プライベートのラウンドで“スパーリング”を行うこともあるそうです。選手としてのリスペクトはもちろん、兄のように慕う存在。だからこそ、ウッズの事故で人一倍ショックを受けたことは想像に難くありません。
年明けから激動の日々だったと思います。ラウンド中の不適切な発言がテレビ中継のマイクに拾われ、ウェア契約を解除されたのが1月のこと。2月「ウェイストマネジメント フェニックスオープン」最終日の前夜には祖父・ポールさんとの悲しい別れもありました。
初優勝が2015年11月のアジアシリーズ「CIMBクラシック」。今大会も3打差をひっくり返したように、ブレークした16―17年シーズン以降では最終ラウンドの逆転勝ちが全選手の中で最多の6回。闘争心にあふれ、逆境に燃える選手ですが、「フェニックスオープン」最終日の憔悴しきった様子は見ていて心が痛くなるほどでした。
一見とっつきにくい印象のあるトーマスも、素顔は紳士的で家族愛にあふれた青年です。コーチである父のマイクさんも、とにかく優しいジェントルマン。クラブプロだったポールさんを含め、ツアー会場でも家族ならではの結束力を感じさせるチームだったことを覚えています。
試合中、持ち前の闘争心ゆえに熱くなりがちなのが玉に瑕(きず)ですが、それを巧みにフォローするのが長年の相棒でもあるキャディのジミー・ジョンソンさん。かつてはスティーブ・ストリッカーやニック・プライス(ジンバブエ)のバッグを担いでいた、キャディ歴20年超の大ベテランです。
怒りの感情がマイナスに作用しそうな局面で“ボス”を寛容にリードする手腕は、まさに熟練の技。松山英樹選手のキャディとして参戦していたとき、上位で迎えた週末に同組となることも多かったのですが、トーマスがジミーさんの意見を頼りにしている様子は要所で伝わってきました。
実力もさることながら、プレジデンツカップのようなチーム戦では打ち上げで被り物をしてみんなを笑わせたり、ダンスを踊って盛り上げたり、お茶目なムードメーカー役までこなす米国選抜のキープレーヤー。復活が待たれる親友のジョーダン・スピースとともに、PGAツアーの新たな時代を築いていってほしい選手です。(解説・進藤大典)