【WORLD】2度の心臓移植 E.コンプトンを支えるもの〈1〉
Golf World(2012年1月30日号)texted by Jim Moriarty
エリック・コンプトンの仲間の一人であるジョン・リヨンズは、エリックのピックアップトラックに、ボートとトレーラーをつなげた。後方には新品の115馬力のヤマハエンジンを、前にはトローリングモーターを積んだアクションクラフト・フライフィッシャーだ。
午前10時頃、彼らはフロリダ州コーラルゲーブルズのコンプトンの家を出発し、12時半までボートを出した。「以前は、朝4時に起きていた」とコンプトン。「でももうそんなに早起きをして魚を捕まえる必要を感じないんだ」。
マイルマーカー0とキーウェストに向かうフロリダターンパイクが、1号南線に再び戻るころ、彼らは「Jack's Bait&Tackle」で、サンドイッチやフレッシュシュリンプを買うために車を停めた。シュリンプはレッドフィッシュと大きなアカメがいるマングローブの木の根元で、キャスティングに使うためだ。そして、フロリダメインランドの南端にあるエバーグレーズ・ナショナルパークのフラミンゴボートランプにボートを寄せ、バトンウッド運河からコート湾へ、そしてターポン川から風の強いホワイトウォーター湾までクルーズする。
「いつも海岸線で釣りをしているんだ」とコンプトン。「できる限りマングローブに近づこうと頑張っている。釣りをした場所をみつけるのは反射神経みたないものだ」。
時々、彼らはネイプルズ方面の西と北の海岸線で釣りをする。また、あるときは右にターンしてヘルズベイ方向に冒険し迷子のようになったりもした。コンプトン一家の古い友人であるジョージ・アンダートンは、コンプトンにエバーグレイズを抜ける安全な航路の見つけ方を教え込んだ。そして今となっては、コンプトンはリヨンをガイドできるほどの知識を持っており、ヘルズベイの一部が、アリゲーターやクロコダイルに囲まれるロングリートの巨大迷路のようになっていることも理解している。
「行くべきところがわからないと、戻る道も見失ってしまうんだ」。コンプトンは、公園管理者の捜索隊が自分たちの双座の飛行機を探していた時に、間違って湾を出たり入ったりしていたので、アンダートンに水路を教えられたことを思い出す。
「一度道を見失ったら、元に戻るのは難しい。僕はいつも(迷子になって)一晩そこにいなくてはいけなくなってもいいように、余分に薬を持って出かけるんだよ。すべてが同じように見えるんだ。すべての曲がり角が島に見えてしまう。迷路みたいなんだ。戻っても誰にも会えない。自分をだますのには、巧みな場所だ」。
これこそが、これまでに2度心臓移植手術を受けた32歳のPGAルーキー、コンプトンが、ツアーで世界一のプレーヤーたちに立ち向かえることができている理由だ。ルーキーの何人かは、ショットを打つ前に最初のリシャッフルを恐れて、数え切れないほどボールを打ち、ディボットを作る。しかしネイションワイドツアーで豊富な経験のあるコンプトンは、単なる30代の新参者ではない。
病気によって、逆にセンセーショナルな注目を集めたコンプトンは、昨年は出場した試合の大半がスポンサー推薦だったが、PGAツアー6試合中5試合で予選通過。リビエラCC(ノーザントラストープン)ではトップ25入りもしており、今年は「ソニーオープンinハワイ」で67位タイ。「ヒュマナチャレンジ クリントンファウンデーション」では42位タイとなっている。
昨年10月にチャールストンで行われたネイションワイドツアー選手権のツアーバッジ授与式では、安堵の叫びをあげ、父のピーターはその姿に涙した。彼だけではない。エリック自身も、自分が世界のトップでプレーできることを喜んだ。すべての障害をものともせずに彼はシード権を手に入れたのだから。
「彼は人生で、彼が常にやりたいと思っていた大きなことをやり遂げたんだ」と言うのは、コンプトンの子供のころからの恩師で、親友でもあるジム・マクリーン。「彼は違うステージにいる。とても成熟した。人々が彼の心臓について尋ねること、それは彼が他の人とは違うという意味を持っているのだが、彼はそれを受け入れているのだから。(以前は)ずっと隠してきたことだったのにね。隠し事がなくなったということで、ずいぶん楽になったと思う。2008年にジャクソン(メモリアル病院)にいたとき、医者は彼に『再びプロゴルフの世界に戻るのは無理だ』と言ったんだ。それを思えば奇跡だよ」。
彼を取り巻く環境は変わってきた。コンプトンは妻のバーバラと結婚し、今シーズン序盤に3歳になるぺトラという娘もいる。庭にはバービーのスクーターがあり、2005年に手に入れたモロッコ風の短刀と同じケースに化粧品とマニキュア液を入れている。
米国ゴルフダイジェスト社提携
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