米国男子ツアー

デシャンボーだけじゃない ツアー随一の“ボディビルダー”は20世紀半ばにもいた

2020/07/15 15:05
筋骨隆々のデシャンボー。シーズン再開後の主役になっている(Leon Halip/Getty Images)

世界最高峰の米国男子ツアーを戦うトッププレーヤー、長年取材してきた現地ジャーナリストが記すスペシャルコラム。今回は7月の「ロケットモーゲージ・クラシック」でツアー通算6勝目を飾ったブライソン・デシャンボーについて。肉体改造で変貌した姿に迫り、半世紀以上前にトレーニングにいそしんだ伝説的選手のキャリアを紐解いた。(ライター/ジム・マッケイブ=Jim McCabe)

■デシャンボーの変身「みんなちょっと失礼だ」(笑)

デシャンボーは「ゴルフ科学者」(彼の言葉)から「超人ハルク」に変身したことを受け入れるのがふさわしいようだ。フランク・ストラマハンからゲーリー・プレーヤータイガー・ウッズに至るまでフィットネスに燃えたゴルファーに敬意を表し、デシャンボーはこの道を今歩んでいる。

カルフォルニア出身の26歳は自身のユニークな道を歩き、これまでとは違う数字で飛躍的な結果を出していることは間違いない。しかし、彼が行っているフィットネスについてはかつても行われ、ゴルフ界で何年も議論されてきた話題をまた再燃させている。

ウエートトレーニングや筋肉増強はゴルファーにとって必要か? この問いにデシャンボーは断然、「イエス」と言い、彼はパンデミックで中断が余儀なくされた期間中に毎日1日3回のトレーニングを行った。3カ月後、3月以降初めてPGA TOURの大会に戻ってくると、バニアンツリーの木よりもたくましく見えた。ソーシャルメデイアでファンたちは彼が体重何ポンドになったか憶測を呼び、その中では「300ポンド」(136kg)が一番多く見られた推測だった。

「みんなちょっと失礼だね」と、実際には20ポンド(9㎏)増だと言うデシャンボーは笑う。今シーズンのメディアガイドでは、(開幕前の)彼の体重は205ポンド(92㎏)と表記されているが、現在は自分の体重は235~240ポンド(106~108㎏)になったという。

とはいえ、ゴルフファンはこの体重の数字については特別気にしない。彼らはドライバーショットでどれくらい飛ばすかに注目している。デシャンボーはけろりと350yd飛ばす。ゴルフに詳しい方にとってはボールスピードが305~310kph(秒速84.7m~86.1m)というのは基本的に未知の領域だということがお分かりだろう(PGAツアーの選手の平均はおよそ秒速76.1m)。

テキサスでの「チャールズ・シュワブチャレンジ」最終日にデシャンボーと回ったロリー・マキロイ(北アイルランド)はその飛距離を目の当たりにして「Wow…」と口にした。新型コロナウイルス感染の検査をしながらツアーが再始動し、無観客で行われた試合でのことだ。「デシャンボーがドライバーショットを打つと、ハリー(ダイヤモンド/マキロイのキャディ)と『信じられないね』っていう感じでお互いの目を見たんだ」。デシャンボーは最終日「66」。プレーオフに1打足りなかったが、14アンダーで4日間を終えた。

次の2試合、「RBCヘリテージ」は8位タイ、「トラベラーズ選手権」で6位タイ。シーズン再開後12ラウンドのうち11ラウンドが60台で平均スコアは「66.5」、通算46アンダー。「ロケットモーゲージ・クラシック」で優勝する流れはできていた。フィル・ミケルソンは「あんなに力強くまっすぐに打つのはすごいね」と言い、ジャスティン・ローズは「とてもユニーク。スピードアップの訓練したんだね」と話した。ウェブ・シンプソンも「あんなに筋肉をつけてスイングスピードとボールスピードを上げ、さらにはコントロールまでできるなんて驚異的だよ。本当にすごい」と驚くほかない。

わずか4週で、トップ10フィニッシュ4回。デトロイトでマシュー・ウルフを破って勝ったとき、デシャンボーは「少し感情的な気分だ」と語った。「これまでとは少し違ったこと、肉体改造に取り組んで、試合中のマインドセットも変えて、まったく違ったゴルフスタイルでプレーして優勝することができたから」

■1950年代に活躍した“ボディビルダー・プロゴルファー”がいた

1958年「ロサンゼルスオープン」で優勝したストラナハン(Photo by Los Angeles Examiner/USC Libraries Corbis via Getty Images)

デシャンボーが2016年にプロ転向してから、彼のユニークさを認めてきたファンやメディアにとっては、「全米アマチュア」と「NCAA選手権」で優勝してから数年後に、この筋肉美を備えた肉体とボールスピードの向上に成功したのは、また実に魅力的なことだ。物理学を専攻し、ゴルフボールを塩水でテストし、アイアンの長さは全部同じに。「酸素欠乏」なんていう言葉を普段平気で口にするような人物で、それぞれが、彼を知らない人にとっては逆にためらいの要素になる。

筋骨隆々の肉体美と、科学者としての側面。双方を納得するためには、落ち着いて、「ショー」を楽しむ心構えが求められる。ここでひとつ、そんなエキセントリックな過去の選手を紹介しよう。デシャンボーが生まれた1993年、71歳でも鉄を持ち上げボディビルディングをしていたフランク・ストラナハンの話。デシャンボーは彼の“続編”というべき存在かもしれないのである。

1950年代にPGAツアーのトラベルセクレタリーだったジム・ガグイン氏は「彼は変わっていた」と言う。「しかし、彼は長生きする方法を知っていた」とも語った。実際、ストラナハンは120年生きるという信念を公にしていた。彼は決して酒を飲まず、タバコも吸わず、午前3時に起きて毎朝ランニングをし、ウエートを使ってトレーニングをするなど健康でいることに情熱を注いでいた。オハイオ州トレドで養子になり、ゴルフキャリアをまっとうし、1964年に42歳で引退してから何十年も元気に過ごした。

最近、ブルックス・ケプカが記者たちにジムをフロリダからヒルトンヘッド島(RBCヘリテージ会場)へ運んだと伝え、ソーシャルメディアを騒がせた。しかしストラナハンがつねにウエートを持ち運んでいたことを考えると、それほど驚きはしない。しかも車だけで移動する1940年、1950年代にだ。

そんな彼は1950年代後半、早くからウエートトレーニングに興味を持っていた南アフリカ出身の若きゴルファーと友人になった。メジャー通算9勝、かのゲーリー・プレーヤーである。

ストラナハンはウエートを使うことにメリットがあると主張しながら、「二の腕や胸ばかりに筋肉をつけるべきではない」と、ゴルフスイングを台無しにしない方法を伝授した。プレーヤーは自分より13歳年上のストラナハンを先生に見立て、彼のことを明確なビジョンを持った人物だと考えていた。「僕のキャリアの始まった頃は、ウエートトレーニングをしているなんでバカだと思われていた」。プレーヤーは4年前、彼が80歳になるときにESPNにこう語っている。「でも私は大会中でもトレーニングを欠かさず、それが絶好調の時期につながったんだ」

この事実に反論できる人がいるだろうか? プレーヤーはキャリアグランドスラムを達成した5人のゴルファーのうちの1人。(ほかにジーン・サラゼン、ベン・ホーガン、ジャック・ニクラスタイガー・ウッズ)。世界中の160大会以上で優勝した。そして、ストラナハンの過剰なフィットネスが彼のゴルフをダメにしたと思う人もいないだろう。

■ゲーリー・プレーヤーの食生活とは≫
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