2014年 フライズドットコムオープン

PGAツアーのルールオフィシャルが語る スロープレーの撲滅方法は

2014/10/08 14:37

ルールオフィシャルの苦悩「胃が痛かった」

62歳のマーク・ラッセルは、オフィシャルとして初めて判定を下した瞬間を覚えているという。それは1980年のことで、オフィシャルとして迎えた最初の大会でのこと。
彼は障害物に阻まれた選手に救済処置を与えた。単純なことで、大きな影響を与えた判断ではなかった。

それから7年後、「アンディ・ウィリアムズ選手権(現ファーマーズインシュランスオープン)」の3日目でのことだった。大会への注目度も上がり、背景も大分風変りしていた。

トーレパインズでの14番ホール、クレイグ・スタドラーは、木の下で膝をついてショットを打つ前に、ズボンが汚れないよう膝の下にタオルを引いた。その翌日、本来であれば他2選手と共に賞金37,000ドルを得られた2位タイで大会を終了したと思ったのだが、失格を宣告された。

タオルを引いたことにより、スタドラーはルール13-3 1/2(スタンス場所を作る際のルール)に違反。しかし第三者がオフィシャルに報告した日曜日の午後まで、違反行為は発覚されなかった。

オフィシャルとしてのキャリアを歩む前はウォルトディズニーワールドでディレクターとして働き、現在は競技委員会副代表を務めるラッセルは、「もし彼がそれ(身体の下にタオルを引けば)をすれば失格になるとわかっていた。彼は冷静に対応してくれたが、奥さんのスーは納得していなかった」と、当時を振り返る。

スタドラーの息子ケビンもまた、2006年に失格処分を受けた経験を持つ。

2006年の「ラスベガス・インビテーショナル」最終日を首位と3打差で迎えたスタドラーは、1ホール目で第2打を打つ前に、アイアンのシャフトが曲がっていることに気づいたが、そのままプレーを続行。その後、彼はホワイトにルールについて質問した。

ホワイトは当時について、「彼には、『問題発生だ、ケビン』と伝えた。そのままプレーさせてあげたかったが、それは出来なかった」と、振り返る。何故なら、スタドラーはツアーから機能を変えたクラブを使ってしまったから(それまでシャフトは曲がっていなかった)。ホワイトは前半9ホールを終えるのを待ち、スタドラーを失格とした。

「胃が痛かった。感情的になっていたし、ルールの内容にも納得していなかった。ケビンは泣いていたし、私も涙を流しそうになった。彼は多額の賞金を失った。たいしたことをしたわけでもないのにね」

2,000を超えるゴルフのルールを全て把握するのは、選手、それにオフィシャルにとっても不可能。だからこそオフィシャルは毎週開催される大会でレポートを提出し、年に2回のアメリカゴルフ協会のセミナーを含み、定期的に行われているセミナーにも出席しているのだ。

「きちんとした準備をすることが大事」と、昨年TPCリバーハイランズで開催された「トラベラーズ選手権」2日目にラッセルは気取らないノースカロライナアクセントで、カートに座りながら話した。「わからないことがあれば、質問しないといけない」。

しかし、判定は青空の下で下されるとは限らない。昨シーズンの「ザ・プレーヤーズ選手権」でのケースを振り返って見る。

ジャスティン・ローズの3日目ラウンド終了後、テレビ映像とズーム映像により、18番ホールのグリーン手前でウェッジを持ってアドレスに入った際にボールが動いたことが判明した。

ラッセルと他のオフィシャルは、「目視ではっきりと確認出来る範囲でボールが動かない限り問題なし」という新たなルールを理解していたため、高画質なテレビで確認されたのであれば、ペナルティは科されないはずと考えていた。だが翌朝、彼らはそれを覆し、ローズに2打の罰則を科した。

「全員で相談しないといけないことだったが、われわれは土曜にやらず、そのまま翌日を迎えてしまった」と、ラッセルは悔恨の念を示した。ローズはシーズン中の大舞台で優勝争いをしていたこと、それに緊張感とプレッシャーがかかるシチュエーションでもあったことが影響したのかもしれない。

2013年の「マスターズ」では、タイガー・ウッズのドロップが問題となった。2日目、不適切な位置でドロップしたウッズには、結果的に2打の罰則が科された。

選手達はルールをどの程度把握しているのだろう?ある選手に言わせれば、全体の60パーセント程度だという。

「ルールブックの厚さがどれくらいか知っているかい?」とは、ブラント・スネデカーの言葉だ。それは、オフィシャルがミスを犯すほどに分厚い。だからこそ、彼らはミスを犯さないよう日々努力を続けている。

ラッセルはルールについて、こう言う。「誰かのエゴではない。われわれは正しい行いがしたいだけ。正しい判断を下すことが一番大事。常々そう話している。独裁ではなく、全委員で決めていることだから」

ゴルフ史に残る5つの判定

■ 1968年マスターズ

ロベルト・デ・ビセンテは誤ったスコアカードを提出し、プレーオフのチャンスを棒に振るった。同伴競技者だったトミー・アーロンは、17番ホールでバーディを記録したビセンゾのスコアを3ではなく、誤って4と記載してしまい、これにビセンゾが署名してしまった為、単独2位となる通算10アンダーに。アルゼンチン出身の「なんて馬鹿なんだ、俺は!」という明言が生まれた瞬間だった。

■ 1987年アンディ・ウィリアムズ選手権

トーレパインズでの3日目、クレイグ・スタドラーは、木の下で膝をついてショットを打つ前に、ズボンが濡れて汚れないよう膝の下にタオルを引いた。その翌日、2位タイで大会を終了したが、タオルを引いたことによりスタドラーはルール13-3 1/2(スタンス場所を作る際のルール)に違反し、失格となった。

■ 2001年全英オープン

ロイヤルリザム&セントアンズでの最終日1番ホールでバーディを記録したイアン・ウースナムは首位に浮上。その際、キャディからドライバーが1本多くバッグに入っていると聞かされた。リミットである14本より1本多い15本を入れていた為に2打のペナルティが科され、それからの3ホール中2ホールでボギーを叩き、3位となった(優勝はデビッド・デュバル)。

■ 2010年全米プロゴルフ選手権

ダスティン・ジョンソンはマーティン・カイマー、バッバ・ワトソンとのプレーオフに突入したかに思われた。しかし、レギュレーションでの最終ホールの第2打にミスを犯す。開催コースとなったウィスリングストレイツにある数多くのバンカーの1つからアプローチショットを打つ前にで、クラブを地面に付けてしまい、ペナルティの対象となった。ジョンソンは多くのギャラリーが踏み固めた砂地からプレーしただけと勘違いし、18番ホール終了後、2打の罰則が科された。

■ 2013年マスターズ

タイガー・ウッズは第2ラウンドの15番ホール(パー5)で第3打をグリーン手前の池に入れ、ドロップ後に打ち直しボギーを記録した。しかし、その後「誤所からのプレー」と判定され、翌朝トリプルボギー(8打)に改められた。2012年以前にも、ウッズは誤ったスコアカードにサインし、失格となったことがあった。現在のルールでは、選手がスコアカードにサインした時点でペナルティの対象が明確ではなかった場合は、それ以降に罰則が科されるようになった為、ウッズは優勝したアダム・スコットと4打差の4位タイで大会を終えた。

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