絶好調のミケルソン 夢は現実のものとなるか?
By Helen Ross, PGATOUR.COM Chief of Correspondents
フィル・ミケルソンは、何かのお告げと思ったことだろう。
メリオンの大会で3日目を1ストローク差のトップで終えたミケルソンは、その晩、「全米オープン」で優勝した夢を見た。最終ラウンドに向かう日曜日の朝、夢の中で感じたものが余程リアルだったのだろう。自分の想像力のいたずらに気付くまで、ミケルソンはしばらく時間を要した。
なぜならどこを探しても、あの恋しい大きなシルバーカップが見当たらなかったのだから。
「優勝カップは何処へ消えたんだ?」ミケルソンはその時の気持ちを表現した。「やがて、自分がどこにいるのか我に返ったんです。見慣れない家の中でした。現実の自分は、最終ラウンドをプレーする前でしたし、実は優勝もしていなかったんです・・・。そして実際、優勝カップはまだこの手に入れていません」。
だからあの日曜日、「全米オープン」で記録的な6回目の準優勝に甘んじたミケルソンが、それからわずかひと月後のミュアフィールドで「全英オープン」の王者となり、夢にまで見た愛しいクラレット・ジャグを身近に置いているのは無理な話ではない。そのシルバーカップは、彼にとって3つ目のキャリアグランドスラム達成の象徴なのだ。しかもまさかと思われていた大会で、最終日に驚くべき「66」というスコアで優勝し、太陽が気持ちいいスコットランドの海岸で夢のような日曜日を過ごしたのだから。
「この9日間というもの、私は毎日トロフィーを確認して、(全英オープンの優勝が)夢ではないってこと、現実に優勝した事実を、そしてちゃんと最終ラウンドを終了し終えたことを確認しているんです」と、ミケルソンは笑顔で語った。
メジャーで5勝を誇るミケルソンは、今週の「WGCブリヂストンインビテーショナル」に登場する。スコットランドから帰国した後の彼は、多忙を極めていた。クラレット・ジャグと共にキャロウェイ本社を表敬訪問し、ニューヨーク証券取引場の終了の鐘を鳴らし、さらに来週の「全米プロゴルフ選手権」が開催されるオークヒルCCでの練習ラウンドもこなした。
それでもミケルソンは、火曜日のファイヤーストーンCCでは既にやる気に満ち溢れていた。スイングコーチのブッチ・ハーモンと家族のいるサンディエゴで、今週はゴルフ漬けの予定だ。
「(スコットランドから戻って以来)本気でゴルフに集中できたのは今日が初めてでした。タッチの感覚、ショットの練習、色々ありますがどれも順調です」と、ミケルソンは語った。「今日は良いショットがたくさん出ました。とても良い感じですよ」。
43歳のミケルソンは、今シーズンを良い形で過ごせそう、と確信するほど順調だ。今シーズン既に2勝している彼が今週のファイヤーストーンで優勝すれば、フェデックスカップでもトップに躍り出る可能性がある。彼は世界ランキングでも再び2位に浮上してきた。
「これからビッグイベントが続きます。『WGC ブリヂストンインビテーショナル』、来週の『全米プロゴルフ選手権』、そして大切な『フェデックスカップ』」とミケルソン。「まだたくさんの大会が残っています。私はいま、キャリア最高の状態でゴルフが出来ています。だから余計に、今週と来週は目標に集中したい。今季を更に良いシーズンにするチャンスだし、もっと特別で最高のシーズンにしたいからね」。
ミケルソンは火曜日に、仲良しのキーガン・ブラッドリーと練習ラウンドをこなしながら、ゆっくりと本気モードにギアチェンジしていった。ブラッドリーといえば「WGCブリヂストンインビテーショナル」の去年の優勝者でもある。
「この男の優勝が、どれだけ嬉しかったことか」。ミケルソンの「全英オープン」での優勝を質問されたブラッドリーは、答えた。「彼が勝つところを見るのが大好きなんだ。だって彼こそは、大会に勝つために必要な努力は厭わない男だからね。私はすぐ彼にテキストメッセージを送りました。ラウンドについてあれこれ話をするのは楽しかったですよ」。
どうやら、去年の「ライダーカップ」でミケルソンと組み、3勝を挙げたブラッドリーは、彼をからかっていたようだ。
「彼が『今年ノリに乗ってるチャンピオン』だってことは百も承知の上で、良かったらアクロンの攻め方を教えてやってもいいぞって言ってやったんだ」と、やんちゃな笑顔でブラッドリーが話した。「彼からは『オレはお前がまだ9歳の時(アクロンで)優勝してるんだぞ』と、返信が来たよ」。
1996年の「NECゴルフワールドシリーズ」で登りつめた優勝は、今のところ世界的な名手としてゴルフ殿堂入りが間違いないミケルソンが持つ42勝のうちの1つだ。メジャー大会で42大会連続で優勝を逸してきた彼は、2004年の「マスターズ選手権」でついに連敗を止めた。あの大会のことを、彼はマスターズ大会の常連選手だったからこそ「いつか勝つとは思っていた」と言った。それ以来、彼は5度のメジャー制覇を達成した。この記録は彼の世代では「タイガー・ウッズ」と名乗る男を除くと、他の誰よりも多いことになる。
「初めてメジャーで勝った時、あのグリーンジャケットを身にまとい、歴史に足跡を刻んだ瞬間の感動は、いつまでも大切にしたい。私の心には素晴らしい記憶と共に残っています」と、ミケルソンは語った。
ところで「全英オープン」だけは、どうも勝手が違うようだ。ゴルフ界で最も長い歴史を有するこのメジャー大会に、彼は19回も出場しているがトップ10入りはたったの2回だけ。それどころかミケルソンは、ミュアフィールドに向かう前週に「アバディーンアセットマネジメントスコットランドオープン」で優勝するまで、イギリス国内の大会で勝利したことが一度もなかったのだ。
「そこ(イギリス)でゴルフする時は、普段のような安定感に欠けてしまうんです。ただ低く打つだけでなく、スピンをかけずに低いボールを打つことに、長い時間かかってしまいました」と、ミケルソンは明かした。「言ってみればこれこそが、チャレンジなのです」。
そのチャレンジ(難関)を乗り越えたミケルソンには、彼のキャリアで忘れられない瞬間があるという。オーガスタナショナルの72ホール目でバーディパットがカップに落ちた時に「オリンピック選手並みのジャンプ」を見せ、全身で喜びをあらわにした時だ。そんなミケルソンにとって「全英オープン」とは、今までで最も満足した瞬間だという。
「 私のゴルフ人生を考えた時、私に与えられた課題、私が習得しなければならないショットの数々を考えると、個人的には『全英オープン』こそが、キャリアの中で最高の舞台だと思います」とミケルソンは語った。